横顔の君
「わかっています。
いえ、ついさっき、はっきりとわかったんです。
さっき、あなたの弟さんを見て…
私が見たのはあの人でした。
顔や体つきはあなたにそっくりですが、身に付けているものの、あの自信に満ちた表情もあなたとは違うあの人…
私…勝手に勘違いをして、あなたを悪く思ってて…
本当に最低です。」

そう言ったら、また涙がぽろぽろこぼれてしまった。
自分の愚かしさが悔しくてたまらなかった。



「そうだったんですか…
あなたはテルと僕を間違えて……」

「ごめんなさい。
私、あなたのことを信じてるつもりだった…なのに、しっかりと確かめることもせず、あなたから逃げるような真似をして……」

また涙が止まらなくなった。
照之さんは…私の知ってる照之さんのままだった。
私を裏切ってなんかいなかった。

どうして、信じることが出来なかったんだろう?
私は、照之さんのことを愛していて、信じてるはずだったのに、あんなことですっかりその信頼を覆してしまった…
それはひどく失礼なことだ。
照之さんに私はとてもひどいことをしてしまった…



「紗代さん…僕とテルは双子の兄弟ですが、一緒に暮らした期間は短いんですよ。
僕らが4つの時に、僕らの母が亡くなりました。
父親だけで僕ら兄弟を育てるのは大変だし、ちょうど僕の伯父夫婦には子供がいなかった。
以前から、テルを養子にという話はあったようなんですが、母が亡くなったことをきっかけに、テルは養子に出され、アメリカに移りました。
確か5つの時だったと思います。
それからは大人になるまでずっと会うことはありませんでした。
久しぶりに会ったのは、駅前の再開発の頃でした。
テルはそのプロジェクトの一員です。
あ、伯父は昔から建築関係の仕事をしていたんですが、テルもそれを引き継いだんです。
あいつは僕とは違い、性格も華やかですし、何よりとても優秀な男です。
出会ってしばらくして、僕はそのことを思い知らされました。
双子だっていうのに全然違うんです。
あいつは、てるひこっていうんですが、てるの字は輝くのてるなんです。
まさに、名前通りですね。
あいつは僕とは違って、自ら光り輝く人間なんですよ。」

照之さんはどこか話しにくそうにしながらも、弟さんのことを話してくれた。



「でも、照之さんだって、まわりを明るい光で照らして下さってるじゃないですか。
あなたの優しさに私はどれだけ癒されたことか…」

「紗代さん…あなたは本当に優しい人ですね。
僕は、テルとは比べ物にはならない。
そんなことはわかってる…
見た目だって、稼ぎだって、能力だって…」

「そんなことありません!
そりゃあ、輝彦さんは確かに素敵ですが、でも、私は照之さんの方が…」

私がそう言うと、照之さんは苦い笑みを浮かべた。
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