横顔の君




「やぁ、はじめまし…じゃないね。
この間、会ったから二度目だね。」

「は、はい、でも、あの時はご挨拶らしいご挨拶もしませんでしたから…あ、あの…」

「テル、こちらは吉村紗代さん。
僕の大切な人だ。」

『僕の大切な人』
その言葉に、胸が熱く震えた。

ある時、照之さんが、私を輝彦さんに紹介したいと言い出した。
特に断る理由もないから、私はそれを承諾した。



「紗代ちゃんか、よろしくね。
僕は、ユキの弟の隠岐輝彦、テルって呼んで。」

「は、はい、輝彦さん、どうぞよろしくお願いします。」

「だ~か~ら~…テルだってば!」

「あ、は、はい。」



照之さんとはまるで鏡を見てるみたいに同じ顔なのに、雰囲気やら口調が違い過ぎて戸惑ってしまう。



「ユキ、こんなことなら、レストランで会食でもすれば良かったのに…
あ、なんなら今から行く?」

「いや、今日はただ紹介するだけだから、ここで良いだろう。
まぁ、正式に婚約でもした時には、みんなで食事でもしよう。」

「そっか、もうそこまで気持ちは固まってるんだ。
それはハッピーだね。」

輝彦さんは、私の方に片目を瞑ってにこやかに笑った。



「テルはどうなんだ?
付き合ってる人はいるんだろう?」

「当たり前だよ。
世間の女子が、僕をほっといてくれるわけがないじゃない。
ただ、今はまだ特定の相手を決めるつもりはないけどね。」

本当に照之さんとはそっくりなのに、雰囲気や話す言葉はまるで別人だ。
そのギャップに、私はさらに混乱していった。



「でも、意外だなぁ…
ユキはもしかしたら一生独身なんじゃないかって思ってたからね。
だいたい、ひきこもりなのによくそんな出会いがあったね。」

「ひきこもりじゃない。
毎日、買い物にも行ってる。」

照之さんはどこか不機嫌そうにそう言った。



「出掛けるのは買い物だけなんて、僕から見たら完全なひきこもりだよ。
ねぇねぇ、紗代ちゃん…どうやって知り合ったの?」

「え……そ、それは、私がこちらのお店に来て…それで…」

「えっ!古本屋の主人とお客ってことから、恋が始まったってこと?
信じられないなぁ…そんなこと、あるんだ…」

輝彦さんは、あからさまに驚いたような顔をして、私と照之さんを交互にみつめた。
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