横顔の君
「全く…あいつと来たら……」

輝彦さんが帰ってから、照之さんは大きな溜め息を吐き出した。



「本当にすみません。
びっくりされませんでしたか?」

「いえ…お会いできて嬉しかったです。」

「僕達は、育った環境は違うとはいえ、元は同じ血を分けた兄弟なのに、どうしてこんなに変わってしまったのか…」

照之さんは、どこか呆れたような顔で頭をかいた。



「でも、やっぱりお顔立ちはそっくりですね。
だから、私…輝彦さんを照之さんだと勘違いしてしまって…」

「そんなに似てますか?」

「ええ。髪型や着るものを同じにしたら、きっと見分けがつかないと思いますよ。」

「自分ではよくわからないんですが、そんなに似てるんですか。
そうですよね…紗代さんが間違えるくらいですもんね。」

「す、すみません。」

私は思わず頭を下げた。



「あ…責めてるわけじゃないんです。
誤解されてる間は、とても辛い時期ではありましたが、でも…僕、良かったって思ってるんです。
あの時期は辛いだけではなかったって…今になると思うんです。
あのお蔭で、僕は僕自身がどれだけあなたを愛しているのかを知ることが出来ましたし、あなたが僕にとってかけがいのない人だってことに気付けたんですから。」

照之さんはどこか遠くをみつめながら、まるで独り言みたいにそう言った。



「照之さん…それを言うなら私もです。
私、あなたに騙されたって思いこんで、またあの時の繰り返しだって思いました。
だけど、そうではなかったってわかった時、今度こそ、あなたを信じようって…信じられるって思ったんです。
今までは心のどこかで、人は裏切るものだって思ってた。
だけど、照之さんは違う…
どんなことがあっても、絶対に私を裏切ったりしない。
世の中にはそんな人もいるんだって、本当にそう思えたんです。」

私がそう言うと、照之さんは穏やかに微笑み、頷いた。




「お互いにとって、あの日々は必要な時間だったってことでしょうか?」

「それにしては、辛すぎましたけどね…」

私の脳裏に泣いてばかりいたあの頃のことが思い出された。



「そういえば、テルは絶妙のタイミングで僕らの前に現れましたよね。」

「ええ、確かに…
さしずめ、輝彦さんは私達のキューピッド…って、ところでしょうか?」

「あいつが…キューピッド…?」

照之さんは、俯いて小さく肩を揺らした。

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