横顔の君




(……どうしよう?)



どんな本を選べば良いのか、すっかり迷ってしまって決められない。
いや、読みたい本ならいくらでもあるのだけど…
要するに考え過ぎ…
こんな本を選んだら、馬鹿にされるんじゃないかとか、つまらない人間だと思われるんじゃないかとか…
そんなことを考え始めたら、もう私にはどれを読んだら良いのかまるでわからなくなっていた。
迷う間にもどんどん時間は過ぎていく…



あんまり長い間悩んでるのもおかしいし、どうしよう…!?



もはや、砂粒程の決断力もなくしてしまった私は、あの人のところにいくという暴挙に出た。



「あ、あの…」

私が声をかけると、あの人はそうっと本から視線をはずして私の方を見た。



「あ、あなたはさっきの…
何か?」

「え…は、はいっ
あの…実は本を選ぶのに迷ってしまって…
そ、それで、おすすめなんてないかなぁ?と…」

私はあの人の顔も真っ直ぐに見られず、俯いてぼそぼそとそんなことを話した。



「おすすめですか?
えっと…どういうジャンルのものがお好きですか?」

「えっ!?」

それは想定してなかった質問だった。
本当はファンタジーとかロマンチックな恋愛ものだけど、そんなことを言ったら、馬鹿にされるかもしれない。
だから、咄嗟に嘘を吐いた。



「じゅ、純文学とか、史実に基づいたものとか…」

馬鹿な女じゃないって思われたくて、そんなことを口にしていた。



「純文学に歴史ものですか、お若いのに渋いですね。」

「いえ、そんな…
あ、あの、あなたはどういうものがお好きなんですか?」

私は、意外にもそんな質問を返していた。



「僕は活字中毒ですから、どんなのでも読みますよ。
真面目な哲学書も軽いラノベも…」

「ラノベ?」

「ええ、携帯小説だって読みますよ。
さすがに横書きはちょっと読みにくいですけどね。」

あの人はそう言って笑った。
子供みたいに無邪気な笑顔で…



(可愛い…)



その笑顔に、私は急に顔に熱を帯びるのを感じた。
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