横顔の君
「あそこが純文学の棚なんですが…」

「えっ?」

あの人の笑顔にぼーっとしていたから、今の言葉を聞きのがしてしまった。



「好きなジャンル以外の本を読んでみるのも良いと思いますよ。」

「え?あ…あぁ、そうですね。
それも面白いですよね。」

「ええ、僕は、完全な雑食なんですけど、ジャンルに関わらず面白いものは面白いし、面白くないものは面白くないと思うんです。」

「そ、そうですよね。」

「だから、タイトルが気になったとか、表紙や装丁が好きだとか、そういうことで選ぶのも面白いと思うんですが…」

「そうですね!」

私が答えると、あの人は怪訝な顔で私をみつめた。
なに?
私、何か変なこと言った??



「あ、あの…私、なにか…?」

恐る恐る訊ねてみたら、あの人ははにかんだようにして、ゆっくりと首を振った。



「いえ…僕がそんなことを言うと、たいていの人はそんなんじゃだめだって言うんです。
本気で面白い本を探してるんだから、もっとまじめに答えてくれって。」

「え?そうなんですか?
わ、私はそういう探し方も面白いと思いますよ。」

それはあの人に合わせたのでもなんでもなく、本当のことだった。



「僕は良く変わってるって言われますから…
だから、そんな風に言ってもらえるなんて思ってなかったです。」

真っ直ぐに私をみつめて、あの人はそう言った。



「じゃ、私も変わってるってことですかね?」

そう言って笑ったけど、言った後で失礼だったかな?と思わず焦った。
でも、あの人は、気を悪くした様子もなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。



私は気を取り直して、本を選んだ。
前から気になりつつも長そうだからとなかなか手の出せなかった長編ファンタジーの第一巻と、タイトルが気になったラノベ、そして、帯の短いあらすじを見て読みたくなった恋愛小説を選んだ。



「あ、これすっごく面白いですよ。」

長編ファンタジーを手に取りながら、あの人が微笑んだ。



「もしかして、全巻読まれたんですか?」

「はい、出てる分は全部…」

確か、この本は私が知ってるだけでも600か700巻まで出てたはず。
ここにも相当数のシリーズが並んでる。
しかも、今なお更新中だ。
この人、本当に本が好きなんだって思ったら、なんだかすごく嬉しくなった。
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