横顔の君




「お母さん、今日は遅くなるの?」

「そんなに遅くはならないはずよ。
多分夕方には戻れると思う…」

今日は、母の学生時代の友達が駅前のショッピングセンターに遊びに来るとかで、母はお昼から出かけるとのことだった。



「……だったら、私が買い物しとこうか?」

躊躇いがちに、私はそう言った。

「そう?じゃあ、お願いね。」



母にとっては何気ない質問だったと思う。
ただ、私にとってはこれはけっこう重要な賭けだった。
母が自分で買って来るって答えたらやめようと思ってた。
だけど、もし買って来てって言ったら…
私は計画を実行することを決めていた。



(……もうそろそろかな?)



母が出掛けてからは、気もそぞろ…
テレビの映像が目の前を素通りする。
時間ばかりが気になって、何をしていても落ち着かない。



(もうやだ…!)



まだ早いことはわかってたけれど、あまりに落ち着かないから、私は電車ではなく自転車で隣町に行ってみることにした。
だいたいの方角はわかってる。
最悪、線路伝いに行けば辿り着くはず。
でも、道順はよくわからないから、少し心配だったけど、今から電車で行ったのではあまりにも早くに着き過ぎてしまうから…
そう、私は、今日、隣町であの人を待ち伏せすることを計画した。
偶然を装って、買い物途中のあの人に会いたかったのだ。
だけど、なかなかその決断が出来なかったから、母の答えをその賭けに使ったというわけだ。



隣町へは迷いながらも30分程で辿り着くことが出来た。
いつもは電車で行くところを自転車で行くのはけっこう新鮮な気持ちだった。
道がわからないことには少し不安はあったものの、スマホの地図を頼りに行くとそう迷うこともなかったし、頬を撫でる風が爽やかで気持ち良かった。



(もうそろそろかなぁ?)



市場の自転車置き場に自転車を停めて、あの人が来ないかときょろきょろあたりを見渡した。


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