横顔の君




(いた!)



雑踏の中でも、背が高く着流し姿のあの人は際立って目立ってる。



(ど、どうしよう…!?)



待ち伏せまでしておいて、今更どうしようはないよなと自分で自分にツッコミを入れたくなった。



騒ぐ心臓をひたかくして、俯き加減によそ見をしながら、私は、あの人の方へ歩み寄った。



「あっ!」

あの人の声に顔を上げると、途端にあの人と目があった。



「あ、こ、こんにちは。」

私、今、おかしな顔をしてないだろうか?
しらじらしさと後ろめたさに、ドキドキしてるんだけど…



「偶然ですね。あなたもお買い物ですか?」

「え、えぇ、今日は時間があったもので初めて自転車で来てみたんです。」

「そうですか、それは楽しかったでしょう?
ちょっとした冒険みたいなものですよね。
あ、冒険は大げさか…」

あの人は自分で言ったことに、自ら小さく微笑んだ。



「はい、楽しかったし、良い気分でした。」

「それは良かったですね。では…」

「は、はい…」

せっかく待ち伏せした割には、本屋さんでしゃべるのと変わらない程の短い会話…
何か引き延ばす手立てはないかと思ったけど、私にはその術がなかなか思いつかなかった。
がっかりして、その場から歩き出そうとした時……



「あ!」

そんな短い声が聞こえて振り向くと、あの人が私の方に小走りで駆け寄って来ていた。
ただそれだけで、私の鼓動はまた速くなる。



「あの…」

「いきなりですみません。
良かったら、付き合ってもらえませんか?」

「えっ!?」

あまりにびっくりして、嬉しいというよりも心臓が止まりそうになって、身体から魂まで飛び出してしまったような気がした。



な、なんで…!?
まさか、この人、私の気持ちに以前から気付いてた?
それとも、知らない間に両想いになってたっていうの?
あまりの驚きに、私はその場に立っているのがやっとだった。
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