横顔の君
「あそこの甘味屋さん、ご存知ですか?」
そう言いながら、あの人は通りの向こうを指差す。
多分、母と買い物に来た時に、何度か入ったことのあるお店のことだと思った。
「あそこの抹茶あんみつ、すごくおいしいんです。
でも、甘味屋さんには男一人のお客ってほとんどいないせいか、なんか一人で入るとじろじろ見られてるような気がして、入りたくてもなかなか入れないんです。」
「あ…あぁ、そういうことですか。」
すっかり勘違いをしていた。
おかしなことを言わなくて良かったとほっと胸を撫で下ろしながらも、どこか少し寂しい気もしたけど、一緒に甘味屋さんに行けるなんて願ってもないチャンスだ。
「あ、すみません。おかしなこと言って…」
「い、いえ、私もちょうど甘いものが食べたいなって思ってたところなんです。
ぜひ、ご一緒させて下さい。」
「本当に良いんですか?」
「ええ、もちろんです!」
あの人が言ってたのは、やはり私の思っていたお店だった。
私もあの人が大好きだという抹茶あんみつを注文した。
「本当にありがとうございます。
あなたのおかげで、今日はひさしぶりに抹茶あんみつが食べられます。」
「いえ、そんな…」
あの人は、本当に嬉しそうだった。
和風のお店に着流し姿のあの人は似合いすぎる程、似合ってる。
でも、あたりを見渡しても男性一人のお客さんはいないし、どのテーブルも四人掛けだから、一人で入るのは確かに気が引けるだろうと思えた。
「あの…甘いもの、お好きなんですか?」
「はい、洋菓子でしつこいのはそうでもありませんが、和菓子はたいてい大好きですよ。」
あの人のデータがひとつ増えたことが嬉しかった。
「えっと…今はどんな本を読まれてるんですか?」
「昨日から、『雨の向こう側』っていうのを読んでるんです。
ご存知ですか?」
「いえ、すみません、知りません。」
「純文学ですから、あなたもきっと気に入られると思いますよ。」
「そ、そうなんですか。
最近は、ファンタジーばかり読んでたもので…」
純文学が好きだと嘘を吐いてしまってたから、なんだか焦って少しおかしな返事を返してしまった。
そう言いながら、あの人は通りの向こうを指差す。
多分、母と買い物に来た時に、何度か入ったことのあるお店のことだと思った。
「あそこの抹茶あんみつ、すごくおいしいんです。
でも、甘味屋さんには男一人のお客ってほとんどいないせいか、なんか一人で入るとじろじろ見られてるような気がして、入りたくてもなかなか入れないんです。」
「あ…あぁ、そういうことですか。」
すっかり勘違いをしていた。
おかしなことを言わなくて良かったとほっと胸を撫で下ろしながらも、どこか少し寂しい気もしたけど、一緒に甘味屋さんに行けるなんて願ってもないチャンスだ。
「あ、すみません。おかしなこと言って…」
「い、いえ、私もちょうど甘いものが食べたいなって思ってたところなんです。
ぜひ、ご一緒させて下さい。」
「本当に良いんですか?」
「ええ、もちろんです!」
あの人が言ってたのは、やはり私の思っていたお店だった。
私もあの人が大好きだという抹茶あんみつを注文した。
「本当にありがとうございます。
あなたのおかげで、今日はひさしぶりに抹茶あんみつが食べられます。」
「いえ、そんな…」
あの人は、本当に嬉しそうだった。
和風のお店に着流し姿のあの人は似合いすぎる程、似合ってる。
でも、あたりを見渡しても男性一人のお客さんはいないし、どのテーブルも四人掛けだから、一人で入るのは確かに気が引けるだろうと思えた。
「あの…甘いもの、お好きなんですか?」
「はい、洋菓子でしつこいのはそうでもありませんが、和菓子はたいてい大好きですよ。」
あの人のデータがひとつ増えたことが嬉しかった。
「えっと…今はどんな本を読まれてるんですか?」
「昨日から、『雨の向こう側』っていうのを読んでるんです。
ご存知ですか?」
「いえ、すみません、知りません。」
「純文学ですから、あなたもきっと気に入られると思いますよ。」
「そ、そうなんですか。
最近は、ファンタジーばかり読んでたもので…」
純文学が好きだと嘘を吐いてしまってたから、なんだか焦って少しおかしな返事を返してしまった。