横顔の君
「あ、あの…お店の名前なんですが…」

あの人の名前が知りたかったから、お店の名前の話をきっかけにしようと、私はそんな話題を投げかけた。



「あぁ、あれは、あの本屋を建てた先祖がつけたものなんですよ。」

「そうなんですか、素敵なお名前ですね。」

「あれは実は……」

あの人が話し掛けた時に、ちょうど注文した抹茶あんみつが運ばれて来て、残念ながら話はそのままになってしまった。



「どうですか?
抹茶の香りがとても良いでしょう?
このほろ苦さが大人って感じですよね。」

「本当にそうですね。」

あの人は食べ方もスマートで綺麗だ。
私の方こそ、緊張で、あやうく白玉を落っことしそうになった。



「そういえば、あの長編ファンタジー小説の作者が、また新たに新刊を出すのをご存じですか?」

「いえ、そうなんですか?」

「はい、日本では確か来月発行のはずですよ。
また大ヒットしそうですね。」

「楽しみですね。
発売されたら、絶対に買います!」

私がそう言うと、あの人はふふっと小さく微笑んだ。



「もうすっかりファンタジーファンになられたんですね。」

「え?は、はい…」

元々ファンタジーが好きだなんて今更言えず、私は俯いて苦笑いを浮かべるしかなかった。



「さてと、それじゃあ、そろそろ行きましょうか?」

「あ、はい…」

本当はもっとゆっくりしたかったけど、食べ終わってしまったからそう長居も出来ない。

私は名残惜しさを感じながら、ゆっくりと立ち上がった。
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