横顔の君




(失敗した……)



あの人…照之さんと別れてから、私は本屋さんに立ち寄り、照之さんの言ってた『悔恨』を探した。
それは、純文学の大御所が書いたもので、おそらく有名なもの…
純文学が好きだなんて言ってしまったけど、早速ボロが出た…
でも、名前どころか漢字まで記憶してるなんて…
やっぱり照之さんはすごい。
それだけ丁寧に読んでるってことなんだろうって思えた。



まぁ、そんな失敗はありつつも、今日は最高の日だった。
小一時間、照之さんと一緒にお話が出来て、知りたかったあの人のことがいろいろ知れて…



(……なんだか、夢みたい。)



一番知りたかったことも聞けた。



あの人は笑ってこう言った。



「こんな偏屈のところに来てくれる人なんていませんよ。」



そう…あの人は独身だった。
年は35歳。
それだけじゃない。
嬉しい情報はその他にもあった。



「僕はほとんど一日中、あの古本屋に座ってますし、テレビもほとんど見なければ、他にこれといった趣味もなく、本のことしかわかりません。
そんな男と付き合ってくれる女性なんていませんよ。」



「います、ここに!」



そう言いたかったけど、さすがにそんなことは言えず、私はただ黙っていただけだった。



でも、本当に意外…
背も高いし、けっこうイケメンだし、あれで流行の服なんて来たら、絶対にモテるだろうに、あの人はそんなことにも少しも気付いてはいない。
普通の服を着てることもたまにあるけど、お父さんがはくようなスラックスとありふれたシャツを着てることが多い。
ほとんどは座ってるからほとんど上半身しか見えないし、それがおかしいというわけではないんだけど、確かに、センスってものはあまり感じられない。
着物姿の方がずっと素敵だ。



(やっぱり変わった人なのかな?)



でも、そんなこと、構わない。
変わってても変わってなくても、私はあの人が好き…!
それは間違いのない事実だ。
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