横顔の君
「吉村さん…どうかされたんですか?」

「あの……じ、じ、実は……」

「はい…?」

ここまで来たらもう逃げられない!
私は、バッグの中から映画のチケットを取り出し、照之さんの前にそれを差し出した。



「こ、これ…!」

「な、なんですか?」

「い、妹がくれたんです。
行くつもりだったけど、なんだか行けなくなったとかって…」

「はぁ…」

「そ、それで、母とか友達とかに訊いてみたんですが、みんな、都合が悪かったり、こういうのは興味がないとかで断られて…」

「ええ…」

「そ、それで、もし良かったら……あの…その…ご、ご、ご一緒に……なんて……
あ、だ、だめだったら別に良いんですよ。
無理はしないで下さい!」

焦って、嘘ばっかり吐いて、私はそのまま死刑の宣告をされるかのような心境で俯いて、照之さんの返事を待った。



照之さんは、手元のチケットを手に取って、そして、ぼそっと呟いた。



「……面白そうですね。」

「え?……今、なんて?」

「この人は奇人と言われた人ですからね。
どんな人生を歩まれたのか、興味ありますよ。」

「え?ほ…本当に?」

「映画なんて久しぶりだなぁ…一体、何年ぶりだろう…」

照之さんは、呑気にそんなことを言って遠い目をしてた。
私はまだ信じられなくて、何を言ったら良いのかわからなくて、ただ照之さんをみつめているだけで…



「これ、日にちは決まってるんですか?」

「い、いえ、上映期間中なら大丈夫みたいです。」

「じゃあ、いつにしますか?」

「え、え…えっと……」

嬉しさと興奮の混乱から覚めきれない私は、頭の中が全然まとまらない。



「吉村さんは土日が良いんですよね?」

「え、ええ、有休をとろうと思えば取れますが…」

そう言ってから、ふと思い当たることがあった。



そういえば、古本屋さんはいつがお休みなんだろう?
照之さんが買い物に行く時は閉まってるとはいえ、いつ行っても「お休み」っていうのがなかったような…
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