横顔の君




「吉村さん、ここです!」

「あ、こんにちは!」



次の日、万が一にも遅れちゃいけないと思って待ち合わせの時間より15分程早くに着いたのに、照之さんはすでにもうそこにいた。
電車の中では重くなっていた瞼も、あの人の顔を見たらしゃきっと開いた。



結局、私はいつもと特に変わり映えのない服装になった。
それが一番自然だと思えたから。
ただ、アクセサリーだけは良いものを身に付けた。
思った通り、今日の照之さんは洋服だった。
やっぱりいつもと特に変わらない…おかしいと言うほどではないんだけど、流行からははずれたどこかもさっとした昭和テイスト…
そして、明るい笑顔…それはいつもとは少し違う気がして…



その時になって私は初めて気が付いた。



そうだ、明るい太陽の下で、照之さんを見たのは初めてなんだ。
古本屋さんの中は室内だからそんなに明るくはないし、買い物はいつも夕方だし。
だから、こんな時間に外で照之さんを見るのは初めてで…
そんなことさえも、私は嬉しくて胸が躍った。



「お待たせしてすみません。」

「いえ、僕もついさっき来たばかりなんですよ。
それに、待ち合わせの時間にはまだ早い。」

なんだろう…
いつもより、爽やかに思えるのは気のせいなんだろうか?



「えっと…ランチはこのあたりのお店で良いですよね?」

「え、はい。」

「何が良いですか?」

「あ、私、特に好き嫌いはないのでなんでも…」

「そうですか…それじゃあ…」



私達は、映画館の近くのファミレスに入った。
日曜日だということで、家族連れが多くて、子供達の声がけっこうにぎやかだ。



「すみません、やっぱり違うお店にすればよかったですね。」

「いえ、私なら大丈夫ですよ。
こういうお店はなんでもあって楽しいですよね。」

その言葉は嘘でもあり本当でもあった。
もっとおしゃれなお店でムードのあるランチをとりたかったって気持ちもあるにはあるのだけど、そんなところだったらきっと緊張して何を食べたかわからないだろうし、会話も弾まなかったと思う。
こういう庶民的なところだから、緊張もせず、いつも通りに話せるんだから…



照之さんが選んだのは和風のおろしハンバーグとハムサラダ。
私も同じものにした。



同じものを食べながら、いつもと同じように本の話に花が咲く。
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