横顔の君
揺れる心
*
「どうしたの?紗代…」
「えっ?何が?」
「何がって…あんた、さっきから何度もため息なんか吐いちゃって…一体、どうしたのよ。」
「え……」
自分ではまるで気付いていなかった。
家に戻って来てからも、私の頭からは古本屋さんのあの人のことが離れなくて、熱に浮かされたように、あの人のことばかり考えていた。
そのことが自分でも理解出来ない。
私はそれほど情熱的ではなかったはず。
それを証拠に、今まで好きになった人は時間をかけてゆっくりと好きになった。
そう、火が付くのが遅いタイプの人間だと思ってた。
なのに、そんな私が一目惚れだなんて…
(そんなことありえない!)
そう思うのに、やっぱり今日の私は普通じゃない。
知らないうちに溜息を吐いてるなんて、どうかしてる…
「……ねぇ、紗代…
今日、なにかあったの?」
「え…な、何もないわよ。」
「でも、あんた…帰ってからなんだか変だよ。
ずっとぼーっとして…」
「あ…あぁ、今日はひさしぶりにたくさん歩いたから疲れたのよ、きっと。
そんなことより、お母さん、知ってる!?
私達が住んでたあのアパート…大きなマンションに変わってたのよ。」
話を逸らせようと、私はどうでも良い話題を口にした。
「アパートって…駅の向こう側のあそこのこと?」
「そう。」
「へぇ…そうなの。
あっち側にはずいぶん行ってないから、全然知らなかったわ。
あんた、今日はあのあたりを散歩して来たの?」
「う、うん、まぁね…
私もあっちはずっと行ってなかったから、どんな風になってるのかなって…
マンションは変わってたけど、でも、こっち程は変わってなかったよ。
私が子供の頃のまんまのお店もけっこうあった。」
「そう……あ、そういえば、あんた、子供の頃、近所の古本屋さんに良く行ってたよね。
あのお店はまだあった?」
「え?そうだっけ?
古本屋さんは見なかった。
また今度行ってみるわ。」
意味のない嘘を吐いてしまった…
別に、古本屋さんに行ったことくらい話しても、私が一目惚れしたことがバレるわけでもないのに…馬鹿みたい。
しかも、古本屋さんの話題が出ただけで、また心臓が騒ぎ出していた。
「お母さん、そろそろごはんにしようよ。
たくさん歩いたせいか、お腹すいちゃった。」
慌てる心を気取られないように、私はそんなことを言って、席を立った。
本当はお腹なんてあんまりすいてなかったのに…
「どうしたの?紗代…」
「えっ?何が?」
「何がって…あんた、さっきから何度もため息なんか吐いちゃって…一体、どうしたのよ。」
「え……」
自分ではまるで気付いていなかった。
家に戻って来てからも、私の頭からは古本屋さんのあの人のことが離れなくて、熱に浮かされたように、あの人のことばかり考えていた。
そのことが自分でも理解出来ない。
私はそれほど情熱的ではなかったはず。
それを証拠に、今まで好きになった人は時間をかけてゆっくりと好きになった。
そう、火が付くのが遅いタイプの人間だと思ってた。
なのに、そんな私が一目惚れだなんて…
(そんなことありえない!)
そう思うのに、やっぱり今日の私は普通じゃない。
知らないうちに溜息を吐いてるなんて、どうかしてる…
「……ねぇ、紗代…
今日、なにかあったの?」
「え…な、何もないわよ。」
「でも、あんた…帰ってからなんだか変だよ。
ずっとぼーっとして…」
「あ…あぁ、今日はひさしぶりにたくさん歩いたから疲れたのよ、きっと。
そんなことより、お母さん、知ってる!?
私達が住んでたあのアパート…大きなマンションに変わってたのよ。」
話を逸らせようと、私はどうでも良い話題を口にした。
「アパートって…駅の向こう側のあそこのこと?」
「そう。」
「へぇ…そうなの。
あっち側にはずいぶん行ってないから、全然知らなかったわ。
あんた、今日はあのあたりを散歩して来たの?」
「う、うん、まぁね…
私もあっちはずっと行ってなかったから、どんな風になってるのかなって…
マンションは変わってたけど、でも、こっち程は変わってなかったよ。
私が子供の頃のまんまのお店もけっこうあった。」
「そう……あ、そういえば、あんた、子供の頃、近所の古本屋さんに良く行ってたよね。
あのお店はまだあった?」
「え?そうだっけ?
古本屋さんは見なかった。
また今度行ってみるわ。」
意味のない嘘を吐いてしまった…
別に、古本屋さんに行ったことくらい話しても、私が一目惚れしたことがバレるわけでもないのに…馬鹿みたい。
しかも、古本屋さんの話題が出ただけで、また心臓が騒ぎ出していた。
「お母さん、そろそろごはんにしようよ。
たくさん歩いたせいか、お腹すいちゃった。」
慌てる心を気取られないように、私はそんなことを言って、席を立った。
本当はお腹なんてあんまりすいてなかったのに…