横顔の君




(……あれ?)



いつものように、ファンタジー小説の続きを買って来て、読んでいた時のことだった。
私は、本の間に、四つ折りにされた小さなメモをみつけた。



『いつも本当にどうもありがとうございます。
あなたの優しいお心遣いには、いつも感謝しています。』



大人っぽい達筆な文字で、そう書かれていた。
鼓動が急に速くなる。



これは、照之さんから私へあてたもの?
それとも、誰かがこの本を売った時に、すでに挟み込まれていたもの?
もし、後者だとしたら、そんなものについて何か言うのは恥ずかしい。
だけど、これがもしも私にあてたものだったら、何も言わないのはおかしい。



どうしよう?
そのことが気になって、気になって…
ますます悩んで、たまらなくなって、私は勇気を振り絞って、ある賭けに出ることにした。



「吉村さん、こんばんは。
もう読み終えたんですか?」

「い、いえ、まだです。
今日は実は本を売りに来ました。」

そう言って、私は、以前買った『水面』を照之さんの前に差し出した。



私はこの本にメモを挟んだ。



『こちらこそ、いつもどうもありがとうございます。
いつも楽しい想いをさせていただいて、あなたにはとても癒されています。』



告白こそ出来なかったけど、これだけ書くのも私には大変なことだった。



「では、560円で買い取らせていただきます。」

「あ、ありがとうございます!」

私は本を受け取ると、一目散に店を飛び出した。
メモを早く見つけてほしいようなみつけないでいてほしいような…
そんな複雑な想いを胸に、私は自転車をこぎ続けた。
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