横顔の君





「こ、こんばんは。」

「あ、こんばんは。」

照之さんがさっと視線を逸らして俯いた。
きっと、あの人は気付いたんだ。
私があのメモの返事を持って来たことに……



「今日は、本を売りたくて…」



数日後、だいぶ前に買ったファンタジー小説を私は鏡花堂に持ち込んだ。
中には当然メモがはさんである。




『私も、隠岐さんのことが大好きです。』



これだけでは短いかと思い、あれこれ考えたけど、結局、良い言葉がみつからずに、私はこれだけを伝えることにした。



「470円で買い取らせていただきますね。」

「はい、ありがとうございます。」

私はお金を受け取ると、逃げるようにその場から立ち去った。



顔から火を噴きそうに熱い…



照之さんはきっとすぐにあのメモに気付くはずだ。
そしたら、どういう反応があるんだろう?
喜んでくれる…?
それとも…?



次から次にわきあがる想像を吹き飛ばすかのように、私は、思いっきりペダルに力を込めた。


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