横顔の君
休みの日には、隣町に買い物に行ったり、どこかに遊びに出かけたり…
そして、相変わらず、照之さんの服選びは私の役目。



最初はぎこちなかった私達も、少しずつ、普通の恋人たちのように振舞えるようになっていた。
たまに手を繋いだり、腕を組んだり…
昔はごく自然に出来ていたことだけど、恋愛からしばらく離れてたせいなのか、それとも別の理由なのかはよくわからなかったけど、そんなこともけっこうハードルは高くなっていて…
初めて照之さんと手を繋いだ時は、本当に心臓がどうにかなりそうなくらい、緊張した。
いい歳をした大人が、馬鹿みたい。
そう思うのに、私のドキドキはおさまらなかった。



「僕ね…
一生、一人でも良いかな…なんて思ってたんですよ。」

「えっ?」

それは、二度目のハーブガーデンに行った時のことだった。



「以前、少し話しましたよね。
僕がださいから、一緒に歩くのがいやだって言われたこと。
あれは、まだ25か6の頃だったと思います。
その後も何人かの人とお付き合いはしましたが、当時の僕は自分に自信が持てなくなってましたし、とにかく誰とも長続きはしなかった。
やがて、父の体調が悪くなり、父のことや仕事のことに気を取られるようになって、恋愛のことはあまり考えないようになりました。
その頃から僕は、以前よりも本にのめりこむようになっていた。
本はすごいですよね。
実際にはなにもなくても、情熱的な物語を読めば恋愛してるような気分も味わえますし、旅をする物語を読めば、実際に旅をしているような気分になれます。
その時に思ったんです。
僕は本さえあれば満足だって…
女性と付き合うのは煩わしいって思ってたんです。
元々、僕は変わってるってよく言われてましたし、僕のことを理解してくれる女性なんて、奇蹟でもない限り、みつからないだろうと思ってましたから、一生、本と共に生きて行こうかなってそんな風に思ってたんです。」

「そうだったんですか…
実は…私も似たようなことを考えていました。」

「えっ?あなたがそんなことを…?」

照之さんは酷く驚いたような顔をした。
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