横顔の君

「今だから告白しますけど…」

「えっ？何ですか？」

「映画に誘ってもらったことがあったでしょう？
あの時、すごく嬉しかったんですよ。」

「そうなんですか？」

「ええ……
お店以外では、女性と話すことさえほとんどありませんでしたし、一緒に甘味屋さんに入ってもらったのも嬉しかったんですが、映画なんて本当に久しぶりだったし、なによりこんな僕を誘って下さったことがとても嬉しくて…
それに……」

「それに？何ですか？」

「あの時、感動して泣いてらっしゃったでしょう？
あの時、紗代さんのこと…すごく可愛いって思ったんです。
本でも映画でもドラマでも、何の感動もない人ってつまらないじゃないですか。
あなたのように素直に感動出来る人は本当に素敵ですよ。」



あの時のぐしゃぐしゃな顔を思い出したら、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
なのに、そんな顔の私を可愛いだなんて…



「あ、あの時は本当に助かりました。
私、一人で映画ってなかなか行けないもので…」

なんでまたそんな嘘を吐いてしまったんだろう？
正直に話せば良いのに…



「あの時まで休みも取らずに僕は働いてばかりで…
あぁ、それは言い過ぎですね。
本を読んでる時間が大半ですから…」

そう言って、照れたように笑うと、照之さんはまた言葉を続けた。



「あの頃から、あなたがお店に来てくれるのが楽しみになってました。
そして、どこかに出かけることが僕の大きな楽しみになっていた。
いや…ちがう…
あなたと会えることが楽しかったんだと思います。」

照之さんの長い指が、私の指に絡みつく。



「紗代さん…」

不意に重ねられた柔らかな唇……
もちろん私は抗うことはなく、その唇を受け入れた。



「照之さん…」

私は、彼の首に腕を回し、自分から彼の唇を求めた。
きっと、これはバレエのせい…
あの情熱的な主人公のシーンが目に焼き付いているからだ。



そして、その晩…



私達は、ごく自然に結ばれた……