姉の思い出 短編集
鼓動
プラネタリュウムの空には、星座が映し出されている。明るい星々を繋いだラインは実際の空にはないものの、星のかたまりを認識するためにはとても役に立っていた。
うだるような暑さから逃れて来たプラネタリュウムには、程良い冷房と暗闇で気を抜いたら意識を刈り取られてしまいそうなほど快適だった。
唇をぎゅっと噛んでいるのも、頭上を見上げているのも今のあたしには都合が良かった。
そういえば、日本最大のプラネタリュウムは名古屋にあって、継ぎ目のわからないドームに、瞬きまでもリアルな星々を再現していたはずだ。
行ってみたいね、なんて呑気で鈍い自分の言動が悔やまれてならない。
いつ、誰となどと決まってもいない約束は、ないのも同じだ。ノーカンでお願いしたい。
見目麗しい幼なじみが、女性に囲まれているのなんて見飽きるくらいなのに、胸に痛みが走った。
普段は無愛想なのに、笑っていたからだ。そんなささいなことで動揺して逃げてきてしまうくらいには参っていた。
音楽とガイド音声のなかに、ふとひそやかな足音が混ざっているのが感じられた。
摺り足のようなそれは、何かを探しているのか、移動しては立ち止まるということを繰り返していて、なんだかこちらに近付いているようだった。