音ちゃんにお任せ
私は、身動きが取れずに。
早く立ち去るべきなのはわかっているのに。
ただ、声をあげないように口元を手で抑えることしか。
溢れだした涙を、止める術を私は知らない。
だって。
「・・・な!?綾瀬!?」
リビングの扉が開いて、背中に一ノ瀬くんの声を聞く。
私は泣いているのがばれたくなくて振り向くこともできずにいる。
肩を震わせ、じっと立ち尽くす私。
「お、音ちゃん!?」
「お前、帰ったんじゃ・・・」
戸惑っている二人の声を背中で聞く。
私は答えなくちゃと涙を思い切りごしごしと拭うと深く深呼吸をして落ち着かせた。
「・・・携帯を、忘れてしまったのを思い出して・・・。すみません、チャイムも鳴らさずに入ってきちゃいました」
「携帯・・・?あ、机の上にあるよ!」
「あ、ありがとうございます」
背を向けたまま話す私に、冬深ちゃんが携帯を見つけてくれたと声を上げた。
でも、それを受け取るために振り向くことができない。