ヒーローに恋をして
 どうしてこんなさよならだったんだろう。そのことを本当はもっと、考えないといけなかった。
 だけどそれには二つのことが足りなかった。ひとつは時間。当時の桃子はとても忙しくて、撮影と学校を往復するだけで精いっぱいだった。
 もうひとつは、十三歳だったこと。桃子もやっぱりまだ子どもだった。あのときコウが考えていたことや、その想いに自分を寄せることはどうしてもできなかった。時間が経てば経つほどに、突然もたらされた別れの痛みだけが心を占めていった。

 空っぽになった心を別のなにかで埋めようとするように、桃子は撮影に没頭するようになる。

 けれど桃子の頑張りを裏切るように、「未来戦士プラネット」終了とともに、徐々に仕事のオファーが減っていった。少年役のイメージが強すぎる桃子は、なまじ高い知名度が仇となって他の役を演じるのが難しかった。

 十二時を過ぎたシンデレラのようだった。女の子に戻った桃子は誰の目にも留まらない。
 その現実を認めたときの桃子はまだ、十四歳だった。
 けれどそれでも、芸能界を辞めたいと思わなかった。

 苦しいとき、もう辞めようとおもうとき。桃子の頭に浮かび上がるのは、弾丸のように飛んできたバスケットボールだった。
 そして、あのことば。

 ももちゃんは、ヒーローなんかじゃない

 あのことばに、負けない。
 私は私のちからで、もう一度ヒーローになってやる。

 それが桃子が未だ芸能界にいる理由の、本人さえも忘れかけていた根っこの理由だった。
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