ヒーローに恋をして
階段から落ちて左足を骨折、全治一ヶ月。
それがユリアのマネージャーから報告された怪我の状態だった。幸いほかに目立った傷はないそうだ。
同じ内容がほぼ同時刻にネットニュースにあがっていて、壁によりかかった桃子はスマホを片手にその記事を読んでいた。
「代役探してるところだって」
カシャン。目の前のパイプ椅子に反対側に座ったコウが言う。桃子は離れたところで林と打ち合わせをしている城之内を見ていた。
「難しいみたいね。突然のことで、もう皆スケジュール埋まってるし」
そう言ったのはマリコだ。そのまますっとこちらに掌を向けられ、意図がわからず固まる桃子に、
「お茶」
簡潔な一言を放つ。慌ててペットボトルと紙コップを引き寄せた。
そうだ、私はマネージャーなんだ。
マリコにしてみれば、大勢のスタッフの一人にすぎない。こんなことに、動揺しちゃいけない。自分に言い聞かせながらお茶を注ぐ。
その様子を見ていたコウが、だしぬけに言った。
「俺ひとり知ってるんですけどね。スケジュール空いてて、演技もうまい女優」
「はい、どうぞ」
紙コップをマリコに手渡した。
「コウさんも飲みますか?」
「誰よそれ」
マリコが紙コップを口につけながらコウに尋ねる。つられるように振り返ると、コウはにこりと笑った。無邪気な少年のような笑み。
その笑顔のまま、コウが言った。
「うちのマネージャーなんですよ」
それがユリアのマネージャーから報告された怪我の状態だった。幸いほかに目立った傷はないそうだ。
同じ内容がほぼ同時刻にネットニュースにあがっていて、壁によりかかった桃子はスマホを片手にその記事を読んでいた。
「代役探してるところだって」
カシャン。目の前のパイプ椅子に反対側に座ったコウが言う。桃子は離れたところで林と打ち合わせをしている城之内を見ていた。
「難しいみたいね。突然のことで、もう皆スケジュール埋まってるし」
そう言ったのはマリコだ。そのまますっとこちらに掌を向けられ、意図がわからず固まる桃子に、
「お茶」
簡潔な一言を放つ。慌ててペットボトルと紙コップを引き寄せた。
そうだ、私はマネージャーなんだ。
マリコにしてみれば、大勢のスタッフの一人にすぎない。こんなことに、動揺しちゃいけない。自分に言い聞かせながらお茶を注ぐ。
その様子を見ていたコウが、だしぬけに言った。
「俺ひとり知ってるんですけどね。スケジュール空いてて、演技もうまい女優」
「はい、どうぞ」
紙コップをマリコに手渡した。
「コウさんも飲みますか?」
「誰よそれ」
マリコが紙コップを口につけながらコウに尋ねる。つられるように振り返ると、コウはにこりと笑った。無邪気な少年のような笑み。
その笑顔のまま、コウが言った。
「うちのマネージャーなんですよ」