ヒーローに恋をして
ワン・オン・ワン
　カシャッカシャッとシャッターが切られ、同じタイミングでカメラマンが指示する。視線こっち、そっちむいて、足首だけ組んで、そう、そのまま。
　カシャッ。カシャッ。スタジオに音が鳴り響く。

　やっぱりコウはプロだ。

　パラソル型とボード型のレフ板に囲まれた真っ白な空間の中、シャッター音と同じ数だけ表情を変えるコウを見ていた。
　どうしたら自分の顔が魅力的に映るのか、きちんとわかってる人の表情だ。指先から髪の先まで計算されて、平面の画像のなかで華やかに自分を演出する。

　お芝居をしてるコウは迫力があった。
　だけどモデルとしてカメラの前に立つコウには、ある種の美しさがある。競技中のアスリートにも通じる、努力に裏打ちされた自信は美しかった。　
　
　このひとのパートナーとしてヒロインを演じるなんて、最初から負けにいくようなものだ。
　
　壁にもたれて、さきほど配られた資料を見ながらため息を吐いた。
　
　新たに決まったコウのＣＭのポスター撮影。日本を代表する車会社のポスターで、どうしてコウがジーンズに胸ボタンを全開にしたシャツ一枚の格好でカメラの前に立つのかわからない。企業の広報担当の女性は、日本を代表するモデルに、日本を代表する新車のイメージモデルをお願いしたいとはりきっていた。

「素敵ですね、コウさん」
　その広報担当、木村が桃子に囁いた。頬が赤いのは、ライティングの灯りが強い所為じゃないだろう。
「うらやましいです、あんなカッコいい方のマネージャーできるなんて」
　はあ、と曖昧に頷いて苦笑する。背筋を伸ばすと、両手に持っている資料がクシャリと音をたてた。
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