ヒーローに恋をして
「はーい本番、シーン十五よーい」

 城之内が声を上げて、シーン番号が書かれたカチンコをカメラに向けた。その瞬間、体育館に集まるすべての人たちの集中力が上がる。カメラに一瞬映るだけのエキストラたちも、真剣な顔でそれぞれの配置についている。腕を組んで見守るスタッフ。場の空気が研ぎ澄まされていく。

 目の前に立つコウを見る。このひとはもうコウじゃない、ナオトだ。いつもならすぐに役柄へと切り替わるその速度が、今はどうしてか鈍い。照明スタッフが掲げ持つライトがやけに暑く感じる。
 
「スタート!」

 城之内の声が、聞こえた。
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