ヒーローに恋をして
「ちょっと、かわいすぎないか?」

 城之内が映像をチェックしながら腕を組む。
「ここさ、ユキはもっとすげなく撥ねつけるイメージなんだけど。でもこれ」
 ほら、と振り返ってモニターを顎で示す。
「これじゃユキがかわいすぎるだろう」

 桃子はなにも言えず、前で組んだ両手の指先同士を擦った。耳がじわ、と熱をもつ。

「惚れてなんかいません」

 モニターの中、アップで映されている自分は真っ赤になっていた。怒ったような、泣きだす前のような顔。それまでのユキとはちがう、頼りなげな目。
 
 こんな顔してたんだ。
 客観的に記録に残されて、そのことがとても恥ずかしい。

「いいじゃないですか」
 隣で腕を組んでいたコウが、ゆったりとした口調で言った。
「だから言ったでしょう。ユキはかわいい人だって」
 同意を求めるように、ねぇ、と桃子を見る。その目元が微笑していて、なんだか悔しい。下を向いてごまかした。

 体の内側が、ばたばたと落ち着かない。なんだか逃げ出したいような焦りに駆られる。マネージャーをやれと言われた時より、映画に出ることが決まった時より。
 今がいちばん落ち着かないのは、どうしてだろう。
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