ヒーローに恋をして
驚いて固まって、どのくらい経ったかわからない。時間にして三秒もないはずだ。相手を引き離そうと腕を突っぱねれば、阻止するように回された腕に力をこめられた。
「――――っ」
どくん、どくんと驚きに固まっていた心臓が、今度は早鐘を打つ。さっきまで力強くボールを突いていた両腕は、渾身の力をこめて押してもびくともしない。
解放されない唇が、じわりと熱をもつ。腰の引けている桃子を宥めるように、コウの片手が頭を柔らかく撫でる。それさえも混乱を呼んだ。
やがてそっと唇が離れる。固まったまま、茫と相手を見る。
たしかに、勝ったらキスさせてと言っていた。だけどそこに込められた意味を掬うより早く、ボールが跳んできて。だからあんなこと、コウも忘れてると思っていたし――。
コウに、キスされた。
湿ってる唇に触ることができなくて、代わりに鼻の下に手をやって口元を守るように覆い隠す。触れた肌が熱い。きっと真っ赤になっている。
なにを言ったらいいかわからない。
コウはそんな桃子をじっと見て、ふたたび桃子の後頭部に手を回した。妙に迫力のある顔でつぶやく。
「なにそのかわいい反応」
そのまま引き寄せられ、ギョッとする。
「ちょ」
口元を覆っていた手をはぎ取られる。近づいてくる顔の避け方がわからない。おもわず目を閉じると、再び唇を塞がれた。
するり、と舌先にコウの舌が触れる。驚いて目を見開いても、近すぎて表情が見えない。そのまま奥まで伸びてきた舌に舌を絡み取られる。
喉の奥で小さく漏れた声が、自分のものとは思えなかった。いつの間にかコウの片腕は桃子を抱きしめて、まるで閉じこめられてるみたいに逃げ場がない。口の中に熱がこもる。
肉体的にも精神的にもいっぱいいっぱいになった頃、再びゆっくりと唇が離された。その時聞こえた水音は、気のせいだと思いたい。
なにこれ。なにこれ。
さっきから同じ言葉が頭の中を回っている。回っているけれど、言葉にはならない。事態は桃子の意志を無視してあらぬ方向に行ってしまった。
「どうしても会いたかった」
コウの声はいつもより小さくて、だけどこんなに近くにいたからその言葉は耳に届いた。
顔が見れずに伏せていた目をのろのろと上げると、真剣な顔でコウが桃子を見ていた。
「……なに」
自分の声がかすれていてショックを受ける。
「聞いてきたじゃん、さっき。どうしてここに、ももちゃんの前に現れたか」
コウの笑ったところなんて何度も見たのに。
胸がどくり、と鳴る音を聞く。
ももちゃん。
コウだけが呼ぶ名前が、熱を帯びた耳にふわりと流れる。
「俺はずっとももちゃんに会いたかった。だから日本に帰ってきたんだ」
「――――っ」
どくん、どくんと驚きに固まっていた心臓が、今度は早鐘を打つ。さっきまで力強くボールを突いていた両腕は、渾身の力をこめて押してもびくともしない。
解放されない唇が、じわりと熱をもつ。腰の引けている桃子を宥めるように、コウの片手が頭を柔らかく撫でる。それさえも混乱を呼んだ。
やがてそっと唇が離れる。固まったまま、茫と相手を見る。
たしかに、勝ったらキスさせてと言っていた。だけどそこに込められた意味を掬うより早く、ボールが跳んできて。だからあんなこと、コウも忘れてると思っていたし――。
コウに、キスされた。
湿ってる唇に触ることができなくて、代わりに鼻の下に手をやって口元を守るように覆い隠す。触れた肌が熱い。きっと真っ赤になっている。
なにを言ったらいいかわからない。
コウはそんな桃子をじっと見て、ふたたび桃子の後頭部に手を回した。妙に迫力のある顔でつぶやく。
「なにそのかわいい反応」
そのまま引き寄せられ、ギョッとする。
「ちょ」
口元を覆っていた手をはぎ取られる。近づいてくる顔の避け方がわからない。おもわず目を閉じると、再び唇を塞がれた。
するり、と舌先にコウの舌が触れる。驚いて目を見開いても、近すぎて表情が見えない。そのまま奥まで伸びてきた舌に舌を絡み取られる。
喉の奥で小さく漏れた声が、自分のものとは思えなかった。いつの間にかコウの片腕は桃子を抱きしめて、まるで閉じこめられてるみたいに逃げ場がない。口の中に熱がこもる。
肉体的にも精神的にもいっぱいいっぱいになった頃、再びゆっくりと唇が離された。その時聞こえた水音は、気のせいだと思いたい。
なにこれ。なにこれ。
さっきから同じ言葉が頭の中を回っている。回っているけれど、言葉にはならない。事態は桃子の意志を無視してあらぬ方向に行ってしまった。
「どうしても会いたかった」
コウの声はいつもより小さくて、だけどこんなに近くにいたからその言葉は耳に届いた。
顔が見れずに伏せていた目をのろのろと上げると、真剣な顔でコウが桃子を見ていた。
「……なに」
自分の声がかすれていてショックを受ける。
「聞いてきたじゃん、さっき。どうしてここに、ももちゃんの前に現れたか」
コウの笑ったところなんて何度も見たのに。
胸がどくり、と鳴る音を聞く。
ももちゃん。
コウだけが呼ぶ名前が、熱を帯びた耳にふわりと流れる。
「俺はずっとももちゃんに会いたかった。だから日本に帰ってきたんだ」