ヒーローに恋をして
「幼なじみなら、こんなとこ来ないで直接家行けばいいだろ」
 たばこの灰をパラパラと地面に落として、宇野は言う。コウは落ちていく灰を目で追いながら小さな声で答えた。
「たしかめたいことがあって」
 出演情報がほとんど書かれてない公式サイト。少し憂えて見える写真。

 桃子は今、幸せなんだろうか?

 何度も浮かび上がる疑問。
 役者のトウコに、聞きたかった。家ではだめなのだ。コウがコートでバスケをプレイするように、桃子の試合会場は、このビルの中にあるから。

「あいつ、もうじき契約終わるんだよ」
 ふいに告げられた言葉に顔を上げる。
「え?」
「売れてないからな。もうすぐ契約期限来るから、それ更新しないで終わり」
 あっさりと宇野は言って、たばこに口をつける。
 ふわぁ。白い煙が宇野の口から揺れ上がる。
「でも社長が、その前にひと仕事させろって」

 ひと仕事?
 眉根を寄せるコウを、宇野が横目で見る。

「まだ十六だからな。あんまヤバいのはダメだけど、ちょっとエロい感じの服着て撮って、それで写真集でも作ってみればって」
 ガツン、と頭を殴られたようだった。耳が熱くなる。
「な……っ」
「子役のイメージがあるだけに、ギャップでウケるんじゃないかって」
「やめろ!」
 おもわず怒鳴っていた。胸がドクドクと騒ぐ。

 信じれない。信じられない。

「ももちゃんをスカウトしたのは、あなたなのに!」

 どうしてそんなことが言えるんだ。顔が怒りで熱くなる。

 きみもヒーローになれるよ

 そう言われたももちゃんは、あんなに嬉しそうだったのに。

 叫んだ所為で息の荒いコウを、宇野は黙って見ている。沈黙の後、宇野は口を開いた。

「じゃあ、俺と取引するか?」
< 66 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop