ヒーローに恋をして
 マンションの駐車場に、一台のバンが停まっている。後部座席には、二つの大ぶりの花束。色とりどりの花がほのかに甘い香りを振りまく。その匂いにあてられたわけでもないけれど、前の座席に座る二人は抱き合ってキスを繰り返していた。

「……コウ」
 長いキスが終わって、吐息交じりに名前を呼ぶ。コウは桃子の髪を耳にかけながら、なに、と小さく尋ねた。

「ありがとう。ずっと信じてくれて」
 さっきの光景が浮かび上がる。笑って拍手してくれたスタッフ。林の言葉。認めてくれたマリコ。

 ぜんぶぜんぶ、このひとがいてくれたからだ。
 
「私一人じゃ、ここまで来れなかった」
 
 コウの手を握る。コウに触れると幸せになって、これが恋なんだと知る。
 たくさんのことを、この年下の男の子に教えられている。
 
 車を出た二人はそのままマンションへと入っていった。花束を抱いてない方の手を、固く繋ぎ合ったまま。
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