ヒーローに恋をして
『人気モデルのコウがタレントのトウコと熱愛中だという。トウコといえばかつて人気子役として一世を風靡したものの、この数年はメディアの前に姿を見せていない。コウは仕事のないトウコの為に、映画「トランジション・ラブ」に出演が決まっていたユリアを降板させ、強引に恋人をヒロインにねじ込んだという。』
記事の隣に、青葉の店にいるコウとユリアのツーショット写真が載っている。写真の下に、小さな文字でコメントが載っている。
『ユリア、降板について話し合おうとするも……』
コウが桃子の手を引いて、店から出て行く写真がそれに並ぶ。
『コウは聞く耳を持たない。この後、二人はトウコのアパートへと向かって行った。』
記事は「降板についてユリアの所属事務所が抗議したが、城之内監督をはじめとした映画関係者からはなんの説明もなかった」と続く。
『恋人に用意させたヒロインの椅子に飛びついたトウコ。けれど世間の人は彼女がヒロインの映画を見たいのだろうか。人気アイドルとかつての「少年子役」、どちらがヒロインに相応しいか。答えは聞くまでもないだろう』
記事を呆然と見る。心の中に大きな穴が空いたようだ。
こんな、悪意のある記事。
手渡された花束が脳裏を過る。笑顔で拍手をしてくれたスタッフたち。城之内の言葉。
彼らのことまで貶めた、ひどい記事だ。
「デタラメです、こんなの」
かすれた声でつぶやくと、宇野がドサリと音を立てて椅子に座った。
「事実かどうかなんて、どうでもいいんだよ。そうらしい、ってことが重要なんだ。発信する方も、読む方も」
吐き捨てるように言われた言葉になにも返せない。三人の間の沈黙を埋めるように、電話が鳴った。藤倉が低い声で返している。はい、お答えすることはありません――。
未だ混乱した頭で、ぼうっとコウを見る。記事を睨むように見据えるコウの目は、見たこともないくらい厳しい。縋るように、コウへと震える手を伸ばした時。
カチャリ。
後ろの扉が開く音がした。
「みなさんお揃いですね」
大ぶりのサングラスを外したユリアが、艶然と笑みを浮かべて立っていた。
記事の隣に、青葉の店にいるコウとユリアのツーショット写真が載っている。写真の下に、小さな文字でコメントが載っている。
『ユリア、降板について話し合おうとするも……』
コウが桃子の手を引いて、店から出て行く写真がそれに並ぶ。
『コウは聞く耳を持たない。この後、二人はトウコのアパートへと向かって行った。』
記事は「降板についてユリアの所属事務所が抗議したが、城之内監督をはじめとした映画関係者からはなんの説明もなかった」と続く。
『恋人に用意させたヒロインの椅子に飛びついたトウコ。けれど世間の人は彼女がヒロインの映画を見たいのだろうか。人気アイドルとかつての「少年子役」、どちらがヒロインに相応しいか。答えは聞くまでもないだろう』
記事を呆然と見る。心の中に大きな穴が空いたようだ。
こんな、悪意のある記事。
手渡された花束が脳裏を過る。笑顔で拍手をしてくれたスタッフたち。城之内の言葉。
彼らのことまで貶めた、ひどい記事だ。
「デタラメです、こんなの」
かすれた声でつぶやくと、宇野がドサリと音を立てて椅子に座った。
「事実かどうかなんて、どうでもいいんだよ。そうらしい、ってことが重要なんだ。発信する方も、読む方も」
吐き捨てるように言われた言葉になにも返せない。三人の間の沈黙を埋めるように、電話が鳴った。藤倉が低い声で返している。はい、お答えすることはありません――。
未だ混乱した頭で、ぼうっとコウを見る。記事を睨むように見据えるコウの目は、見たこともないくらい厳しい。縋るように、コウへと震える手を伸ばした時。
カチャリ。
後ろの扉が開く音がした。
「みなさんお揃いですね」
大ぶりのサングラスを外したユリアが、艶然と笑みを浮かべて立っていた。