ヒーローに恋をして
いくつものライトとカメラが、舞台の中央に立つ桃子とコウに注がれている。楽屋でナーバスな顔を見せていたとは思えないほど、桃子はきれいな笑顔を見せていた。コウとの交際についてフライング気味に質問した記者が、司会者に諌められている。その間も二人は笑顔を通している。
変わったな。
舞台袖から様子を見ていた宇野は腕を組んだ。あんなふうに質問を受けた時、少し前だったら慌てふためいて、おそらく自分のことをキョロキョロ探していただろう。けど今日桃子はそうしなかった。
今もカメラをまっすぐ見て、背筋を伸ばして立っている。そんな桃子を、コウが眩しげに見つめている。
「トウコちゃんて、こんなきれいだったんですね」
隣で感心したように藤倉が言う。半年前、アイドルグループからコウのマネージャーへと担当を変えさせられた藤倉は、未だ業務を後任に引き継ぎ切れずに結局どちらも兼務してるような状態のままだ。その所為か、丸みのあった腹はへこみ顎もシャープになってきている。僕がくたばったら宇野さんのせいです、とよく言っている。
宇野は答えずに、壇上へと視線を戻した。十二年前、青葉と見た目が似てるから、という理由だけでスカウトした少女。逆を言えば、それ以外に惹かれるところはなかった。だから声をかけたときから、うっすら予想していたのだ。彼女はきっと、これっきりだろうと。
いつだったか、城之内が宇野に言ったことがある。
トウコちゃんはうまいよ。だから惜しいね、と。
こちらの予想以上に桃子の演技はうまかった。隊員芝居なんてしないで、自然と少年を演じていた。だからこそ、番組が終わった後の居場所がなくなることも想像できた。少年のイメージが付きすぎた少女を、事務所は持て余していた。
だけど。
宇野の前で、一度だけ桃子が泣いたことがある。公園でのロケ中のことだった。桃子の様子がおかしいと感じて、さっきみたいにペットボトルを手渡して。
その時急に泣き始めたのだ。驚いて、ふいに悟った。
この子はまだ十二歳なんだ。大人たちに囲まれて仕事をして、不安も迷いもたくさんあるだろう。
この世界に引っ張りこんだのは自分だ。
それならその責任を取らないといけない。
できるかぎりで、守ってやろうと思った。同時にどこかで期待もしていた。
トウコちゃんはうまいよ、と城之内が言ったように。
この子にはまだ可能性があるんじゃないか。そんな風に思うようになった。
舞台の上、コウと桃子が互いを見て、そっと笑みをこぼす。そこに抑えられない歓びを感じて、宇野はひとつ頷いた。
がんばったのは桃子だけじゃない。
十年前宇野の前に現れて、取引に応じた少年。正直期待してなかった。
それなのに彼はやり遂げた。本当に、有名になって帰ってきた。
宇野さん、約束したでしょ? ももちゃんを、僕にください。
そう言って微笑んだ男があの時の少年とは思えなかった。咄嗟に言葉が出てこないなんて体験、久しぶりだった。
そしてコウと会った時の桃子の反応を見て、わかったのだ。
桃子もきっとずっと、この男を待ってたんだろうと。
長い年月を超えて見(まみ)えた王子と姫のように寄り添う二人に、無数のフラッシュがたかれる。宇野は笑みを浮かべてその様子を見ていた。
変わったな。
舞台袖から様子を見ていた宇野は腕を組んだ。あんなふうに質問を受けた時、少し前だったら慌てふためいて、おそらく自分のことをキョロキョロ探していただろう。けど今日桃子はそうしなかった。
今もカメラをまっすぐ見て、背筋を伸ばして立っている。そんな桃子を、コウが眩しげに見つめている。
「トウコちゃんて、こんなきれいだったんですね」
隣で感心したように藤倉が言う。半年前、アイドルグループからコウのマネージャーへと担当を変えさせられた藤倉は、未だ業務を後任に引き継ぎ切れずに結局どちらも兼務してるような状態のままだ。その所為か、丸みのあった腹はへこみ顎もシャープになってきている。僕がくたばったら宇野さんのせいです、とよく言っている。
宇野は答えずに、壇上へと視線を戻した。十二年前、青葉と見た目が似てるから、という理由だけでスカウトした少女。逆を言えば、それ以外に惹かれるところはなかった。だから声をかけたときから、うっすら予想していたのだ。彼女はきっと、これっきりだろうと。
いつだったか、城之内が宇野に言ったことがある。
トウコちゃんはうまいよ。だから惜しいね、と。
こちらの予想以上に桃子の演技はうまかった。隊員芝居なんてしないで、自然と少年を演じていた。だからこそ、番組が終わった後の居場所がなくなることも想像できた。少年のイメージが付きすぎた少女を、事務所は持て余していた。
だけど。
宇野の前で、一度だけ桃子が泣いたことがある。公園でのロケ中のことだった。桃子の様子がおかしいと感じて、さっきみたいにペットボトルを手渡して。
その時急に泣き始めたのだ。驚いて、ふいに悟った。
この子はまだ十二歳なんだ。大人たちに囲まれて仕事をして、不安も迷いもたくさんあるだろう。
この世界に引っ張りこんだのは自分だ。
それならその責任を取らないといけない。
できるかぎりで、守ってやろうと思った。同時にどこかで期待もしていた。
トウコちゃんはうまいよ、と城之内が言ったように。
この子にはまだ可能性があるんじゃないか。そんな風に思うようになった。
舞台の上、コウと桃子が互いを見て、そっと笑みをこぼす。そこに抑えられない歓びを感じて、宇野はひとつ頷いた。
がんばったのは桃子だけじゃない。
十年前宇野の前に現れて、取引に応じた少年。正直期待してなかった。
それなのに彼はやり遂げた。本当に、有名になって帰ってきた。
宇野さん、約束したでしょ? ももちゃんを、僕にください。
そう言って微笑んだ男があの時の少年とは思えなかった。咄嗟に言葉が出てこないなんて体験、久しぶりだった。
そしてコウと会った時の桃子の反応を見て、わかったのだ。
桃子もきっとずっと、この男を待ってたんだろうと。
長い年月を超えて見(まみ)えた王子と姫のように寄り添う二人に、無数のフラッシュがたかれる。宇野は笑みを浮かべてその様子を見ていた。