レインボウ☆アイズ
衝動
昨日、和成が風邪で休みだったということは、昼休みにメールが来て知った。
あの人のことを考えてニヤついてたせいもあって、かなりの罪悪感を感じた。
それを祐子さんに言ったら「なんで?」と言われてしまった。
うまく言えないけど、和成が苦しい思いをしているのに、俺が浮かれてちゃいけない気がする。
でも結局、今日の朝もあの人が来るのを待ってしまって、電車を一本見送った。
電車が行った後にすぐ来たあの人は、なんだか疲れた顔をしていた。
金曜日だから、一週間の疲れが出ているのかな。
『ふわふわくん、おはよ…』
少しだけ目が合って、聞こえた。…とても疲れているみたいだ。
会社で働くって、大変なんだろうな。お疲れ様です。
何か癒してあげられる能力が、俺にあればよかったのに。
そう思いながらベンチから立ち上がり、あの人の後ろに並ぶ。
…いつもならそろそろ来る電車が、なかなか来ない。
時計を見ると、来るはずの時間を3分過ぎている。
すると、アナウンスが聞こえた。
「急停車信号のため、電車が遅れております…。」
こういうこともあるんだな。
俺は早めに出てるから平気だけど、もしかしたら遅刻しちゃうんじゃないかな。
そう思って前に並ぶあの人を見ると、スマホでメールをしている。会社に連絡をしているのだろうか。
やっと来た電車は、外から見てもあからさまに混んでいる。
あの人に続いて電車に乗って、いつもの場所にかろうじて立った。
でも、後ろからどんどん人が乗ってきて、今までになく近づいてしまう。
…こ、これは…。近い。近すぎる。
触れてしまわないように、ギリギリに立つが、多分顔は赤い。
見られてないといいなと思って見ると、目が合った。
『混んでるなあ。ふわふわくんの顔が近い…』
ああ、見られていた…。顔が赤いのバレたかな。
早く寝てくれないかなー…。赤い顔見られたくないのに、と思って見ると、また目が合う。
『ふわふわくん、落ち着かないな。混んでて嫌なのかな』
観察されてる…。寝てほしいけど、混んでいるから眠れないんだろうか。試しに目をつぶってみては、くれないだろうか…。
そう思っていると次の駅に着いて、また人が乗ってくる。
俺の背中は押されているが、これ以上進むと、あの人に触れてしまう。
つま先に力を入れて耐えていたが、これ以上は…。無理。耐えられない。
しかたなく少し前に行くと、あの人の背中に俺の胸が当たって、ドア側に進んでくれた。
…あ、大丈夫、触らないで済む。ちょっと残念に思ってしまう。
見ると、心配そうな顔で
『ふわふわくん辛そう。場所変わってあげたいなー』
と心の声が聞こえた。
ダメです。後ろのおっさんにグイグイ押されちゃいます。
心配をかけないように平気な顔をしないと。
一生懸命平静を装っていたら、なんだか疲れてきた。
辛くないですよ、って言ってしまえたら楽なのにな…。
心の中でため息をついていると、また次の駅で、人が乗ってくる。
もうちょっと寄れるだろうか。…だめなんだ。俺の胸が、あの人の背中に触れたままだ。
俺の激しい心臓の鼓動が、あの人の背中から伝わったら困るので、
ドアに手をついて、できるだけ触れないようにした。
腕は辛いけど、心配かけないように、なんでもない顔しなきゃ。
でも、なんでもない顔って、どんな顔だったっけ…。
動揺のせいか、何もわからない。考えていると、また目が合った。
『壁ドンみたい…』
壁ドンって、何だろう。ちょっと嬉しそうだけど。
『でも相手が私じゃね…』
少し聞こえて、目を伏せた。嬉しそうな顔が、曇ったように見える。
…どうしたんだろう。目が合わないから、何もわからない。
いざというときに、使えない能力だ。
いや、能力に頼らずに、どうしたんですかって聞けばいいのか。
それができたらなあ…。なんだか俺も落ち込んできた。
『ふわふわくん、大丈夫かな』
目が合って、優しい声が聞こえた。また心配をかけてしまっているな…。
大丈夫です、満員電車にも慣れてきました、って伝えたい。
でも、どうすればいいんだろう。何て話しかければいいんだ?
”好きです”…いや、無理だろ。そんなこと、いきなり言ったらまずいだろ…。
”友達になってください”…OLさんと友達になりたがる高校生って、どうなんだろうか。
そんなに友達いないんだ、ってバレないかな…。
あー、いい言葉が思い浮かばない…。
和成だったらどうするんだろう。…相談したかったな。
『ふわふわくん、疲れてる』
また目が合って、見られていたことに気づく。
いや、疲れているんじゃなくて、考えすぎなんです…。
なんだか申し訳ない気持ちで、いっぱいだ。
『高校生から見たらOLなんて、おばさんだしね』
そこまで聞こえて、あの人は目をふせた。
…どういう意味だろう?
心の声が聞けても、わからないことはある。
目が合って、言葉にしてくれないとわからないし、
その言葉の意味がわからなければ、気持ちはわからない。
中途半端な能力だ。やるせなく思っていると、目が合って声が聞こえた。
『おばさんに近づかなきゃいけなくて、嫌だろうな』
え…?思わず目が丸くなる。
もしかして、あなたに触れることが、俺が疲れている原因だと思ってる?
…ものすごい誤解。すげー嬉しいのに…。
いくら俺がそう思っても、あの人に届くはずはない。
俺の気持ちは、言わないと伝わらないんだ。
…伝えなきゃ。
あの人のことを考えてニヤついてたせいもあって、かなりの罪悪感を感じた。
それを祐子さんに言ったら「なんで?」と言われてしまった。
うまく言えないけど、和成が苦しい思いをしているのに、俺が浮かれてちゃいけない気がする。
でも結局、今日の朝もあの人が来るのを待ってしまって、電車を一本見送った。
電車が行った後にすぐ来たあの人は、なんだか疲れた顔をしていた。
金曜日だから、一週間の疲れが出ているのかな。
『ふわふわくん、おはよ…』
少しだけ目が合って、聞こえた。…とても疲れているみたいだ。
会社で働くって、大変なんだろうな。お疲れ様です。
何か癒してあげられる能力が、俺にあればよかったのに。
そう思いながらベンチから立ち上がり、あの人の後ろに並ぶ。
…いつもならそろそろ来る電車が、なかなか来ない。
時計を見ると、来るはずの時間を3分過ぎている。
すると、アナウンスが聞こえた。
「急停車信号のため、電車が遅れております…。」
こういうこともあるんだな。
俺は早めに出てるから平気だけど、もしかしたら遅刻しちゃうんじゃないかな。
そう思って前に並ぶあの人を見ると、スマホでメールをしている。会社に連絡をしているのだろうか。
やっと来た電車は、外から見てもあからさまに混んでいる。
あの人に続いて電車に乗って、いつもの場所にかろうじて立った。
でも、後ろからどんどん人が乗ってきて、今までになく近づいてしまう。
…こ、これは…。近い。近すぎる。
触れてしまわないように、ギリギリに立つが、多分顔は赤い。
見られてないといいなと思って見ると、目が合った。
『混んでるなあ。ふわふわくんの顔が近い…』
ああ、見られていた…。顔が赤いのバレたかな。
早く寝てくれないかなー…。赤い顔見られたくないのに、と思って見ると、また目が合う。
『ふわふわくん、落ち着かないな。混んでて嫌なのかな』
観察されてる…。寝てほしいけど、混んでいるから眠れないんだろうか。試しに目をつぶってみては、くれないだろうか…。
そう思っていると次の駅に着いて、また人が乗ってくる。
俺の背中は押されているが、これ以上進むと、あの人に触れてしまう。
つま先に力を入れて耐えていたが、これ以上は…。無理。耐えられない。
しかたなく少し前に行くと、あの人の背中に俺の胸が当たって、ドア側に進んでくれた。
…あ、大丈夫、触らないで済む。ちょっと残念に思ってしまう。
見ると、心配そうな顔で
『ふわふわくん辛そう。場所変わってあげたいなー』
と心の声が聞こえた。
ダメです。後ろのおっさんにグイグイ押されちゃいます。
心配をかけないように平気な顔をしないと。
一生懸命平静を装っていたら、なんだか疲れてきた。
辛くないですよ、って言ってしまえたら楽なのにな…。
心の中でため息をついていると、また次の駅で、人が乗ってくる。
もうちょっと寄れるだろうか。…だめなんだ。俺の胸が、あの人の背中に触れたままだ。
俺の激しい心臓の鼓動が、あの人の背中から伝わったら困るので、
ドアに手をついて、できるだけ触れないようにした。
腕は辛いけど、心配かけないように、なんでもない顔しなきゃ。
でも、なんでもない顔って、どんな顔だったっけ…。
動揺のせいか、何もわからない。考えていると、また目が合った。
『壁ドンみたい…』
壁ドンって、何だろう。ちょっと嬉しそうだけど。
『でも相手が私じゃね…』
少し聞こえて、目を伏せた。嬉しそうな顔が、曇ったように見える。
…どうしたんだろう。目が合わないから、何もわからない。
いざというときに、使えない能力だ。
いや、能力に頼らずに、どうしたんですかって聞けばいいのか。
それができたらなあ…。なんだか俺も落ち込んできた。
『ふわふわくん、大丈夫かな』
目が合って、優しい声が聞こえた。また心配をかけてしまっているな…。
大丈夫です、満員電車にも慣れてきました、って伝えたい。
でも、どうすればいいんだろう。何て話しかければいいんだ?
”好きです”…いや、無理だろ。そんなこと、いきなり言ったらまずいだろ…。
”友達になってください”…OLさんと友達になりたがる高校生って、どうなんだろうか。
そんなに友達いないんだ、ってバレないかな…。
あー、いい言葉が思い浮かばない…。
和成だったらどうするんだろう。…相談したかったな。
『ふわふわくん、疲れてる』
また目が合って、見られていたことに気づく。
いや、疲れているんじゃなくて、考えすぎなんです…。
なんだか申し訳ない気持ちで、いっぱいだ。
『高校生から見たらOLなんて、おばさんだしね』
そこまで聞こえて、あの人は目をふせた。
…どういう意味だろう?
心の声が聞けても、わからないことはある。
目が合って、言葉にしてくれないとわからないし、
その言葉の意味がわからなければ、気持ちはわからない。
中途半端な能力だ。やるせなく思っていると、目が合って声が聞こえた。
『おばさんに近づかなきゃいけなくて、嫌だろうな』
え…?思わず目が丸くなる。
もしかして、あなたに触れることが、俺が疲れている原因だと思ってる?
…ものすごい誤解。すげー嬉しいのに…。
いくら俺がそう思っても、あの人に届くはずはない。
俺の気持ちは、言わないと伝わらないんだ。
…伝えなきゃ。