レインボウ☆アイズ

メール

夜になり、そわそわしながら8時を待って、俺は咲葉さんにメールをした。
『お仕事、お疲れ様でした。毎日大変ですよね。尊敬します。
 まだお仕事中だったらスミマセン』
午後中、考えに考え抜いた内容だ。悔いはない。
もう一度時計を見て、8時になっていることを確認し、送信ボタンを押す。
…ふう。一息ついて思う。
こうしてメールが送れるだけで、幸せだなあ…。
幸せに浸っていると、メールが来た。咲葉さんからだ。
『ありがとー。お金もらえないのに、したくない勉強してる学生のほうが大変だよ…』
うわー…すぐに返信くれたー。嬉しい…。
それに、俺に話を振ってくれてる。返信しやすいな…。
『勉強嫌いだったんですか。俺も好きじゃないですけど』
大学行かなかったんですか、とかも書きたいけど、
あまり長い文章だと、返信しにくいよな。我慢してちょっとだけ聞こう。
その作戦は成功だったようで、またすぐに返信が来た。
『勉強しないでバイトばっかりしてたよ。
 ところで自分のこと、俺、って言うんだ。僕、かと思った。』
え…そこが気になるんだ。なんだか恥ずかしいな…。
勉強の話のほうが楽だったけど、咲葉さんがふってくれた話題に触れないと…。
『バイトしたことないです。やっぱり尊敬します。
 気づいたら、俺って言うようになってました。なんでかは思い出せないです。』
こんな感じでいいだろうか。
なんか硬い気がするけど、ほかに思いつかない…。
とにかく、送信してみようかな。他の話もしたいし…。
迷いつつ送信すると、またすぐに返信が来た。
『まじめに答えてくれてありがとう。
 酔っぱらいのたわごとだから、返事に困ったらスルーしていいよ』
そうなんだ、酔っぱらってるんだ…。
ということは、お酒を飲みながら俺とメールをしてるのかな。
咲葉さんは一人暮らしなんだろうか。ご飯は自分で作るのかなあ。
…そういったことは聞けないな。
なんだかどきどきしてしまうし、根ほり葉ほり聞かれるのはうざいだろう。
でもお酒を飲んでいることには、触れてもいいよなあ…。
悩んでいると、また咲葉さんからメールが来た。
『バイトしたことなくて、お小遣いどうしてるの?親からもらうので足りるの?』
なんか、答えにくい質問だ…。
お金を自分で払うことなんて、無いし…。
『お酒好きなんですね。お金は使わないので、大丈夫です。』
で、いいか…。サッパリしすぎだろうか。
でも、とにかく早く送らないと。
また咲葉さんからメールが来てしまったら、どうしたらいいかわからない。
俺は、急いで送信ボタンを押した。なんとか送信できた。よかった…。
安心しながら、咲葉さんのメールを読み返す。
咲葉さんは高校生の頃、バイトしてたんだ。何にお金を使ったんだろう。
俺はほとんどひきこもりだから、普通の高校生のお金の使い道がわからない。
欲しい物は、修に言えば用意してくれるし…。
…この話題は、俺には無理かもしれない。
気を重くしていると、咲葉さんからメールが来た。
『敦哉君はお金使わないんだ。堅実で偉いねー。』
なんだか褒められたようで嬉しいけど、誤解されている気がする…。
ただのひきこもりなのに。…正直に言ったほうがいいな。
『いつも家にいるので、お金の使い道がないだけです。』
送信、と。…あー、引かれるよなー…。
こんなことになるなら、ちゃんと高校生らしくしておくんだった。
『そうなんだ。私も最近は家でゴロゴロしてるのが好きだよ。』
返信来た、よかったー…。
それにひきこもりだってわかってるのに、フォローしてくれてる感じがする。
咲葉さんって心が広いな…。
一緒にゴロゴロしたい…。あー、変なこと考えはじめた…。
そう思いながらも、想像してしまってドキドキする。
もう…。この話題から離れよう…。
考えていると、また咲葉さんからメールが来た。
『今度ラーメン食べに行くの、つきあってもらえないかな。一人じゃ入りにくくて。』
ラーメン…全然食べたことないけど、大丈夫だろうか。
でも、咲葉さんからのお誘いを断るわけにはいかない。
『いいですよ。いつでも暇です。』
すぐに返信する。…あ、明日とかになっちゃったらどうしよう。
『じゃ、来週あたり行こうー。楽しみー』
来週か。とりあえず一安心だ。明日、ラーメンを食べる練習をしよう。
咲葉さんは、明日は何してるんだろうか。…うーん…。
『明日はお休みですか?一週間、お仕事お疲れ様でした。』
何するんですか?とは聞けないから、遠まわしな感じで聞いてみる。
俺もちょっとメールに慣れてきたな。
『ありがとう。明日はゴロゴロして休むよー。』
そうなんだ。ゴロゴロするの、大好きなんだな。
俺も咲葉さんと同じように、ゴロゴロして過ごそうかな。
それで、たまに咲葉さんと話が出来たら嬉しい。
『明日もメールしていいですか』
『いいよ。すぐに返事ができなかったらごめんね。気づくと寝てるから』
気づかないうちに寝ちゃうんだ。なんだか可愛いな。
知らない咲葉さんの顔が見れたようで、嬉しい。
ああ、もっと話がしたい…。でも…。
『ありがとうございます。じゃ、おやすみなさい』
引き際も大切よ、って祐子さんに言われたから、この辺にしておこう。
名残惜しいけど、明日もメールできるんだし。
『おやすみー。』
咲葉さんから返事がきた。
…ああ、すごく仲良くなった気がする。うれしい。
ベッドでゴロゴロしながら、メールを読み返して幸せに浸っているうちに、俺は気づくと寝てしまっていた。
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