レインボウ☆アイズ
店を出て、ふと思う。…もう帰らないといけないんだな…。
っていうか、ラーメンを食べた後どうするか、何も考えてなかった。
やっぱり、俺にデートは無理なんだ、と暗くなる。
すると、咲葉さんが呟いた。
「すきっ腹のビールは効くなあー。」
どういう意味かよくわからないので、咲葉さんの顔を見る。
『ふわふわして、気持ちいいー』
目が合って、咲葉さんは笑う。ああ、酔っ払ってるんだ…。
このまま一人で帰すのは心配だ。思いきって俺は言ってみた。
「…家まで送ります。」
「えー、大丈夫だよー。」
「でも…心配です。ふらふらしてるし。」
言ってるそばから、店の看板にぶつかりそうになっているので、とっさに俺は咲葉さんの腕を掴む。
手のひらに全神経が集中して、思考が停止する。
咲葉さんがお酒好きで良かったかも、と思ってしまう。
「じゃ、途中の公園まで一緒に散歩しよう。」
『家で二人きりになるのは、まだちょっとね』
咲葉さんの心の声に、俺は我に返る。
あ、そうか。俺アホだな。女の人の家に行こうとするなんて。
恥ずかしいな。そして断られた気がしてガッカリしてる自分に、嫌気がさす。
でも、咲葉さんは酔っていても、そういうところはしっかりしてるんだ。
さすが大人だな。…それに比べて、俺は子供だ。
後先考えずに、簡単に家まで送るなんて言って…。
「今日は暑いねー。」
暗くなっている俺に気づかずに、咲葉さんは空を見上げて言う。
「アイス日和だねえ。」
え?さっきラーメン残したのに。本当に食べたいわけじゃないだろうと思っていると
「あ、あそこのコンビニでアイス買おう。」
はっきりと咲葉さんは言った。
本当に食べたいんだ…。
「でもさっきラーメン食べたばかりですけど…。」
「甘いものは別腹、って聞いたことない?」
『敦哉君は違うのかな』
咲葉さんは笑ってコンビニに入る。
俺は全然食べたいと思わないけど、心の声に答える訳にはいかないし…。
返事を考えていると、咲葉さんに聞かれた。
「敦哉君は何か飲む?お茶でいい?」
『アイスは食べたくないんだろうな』
「あ、はい…。」
よかった。わかってくれてた。
会話が難しいなあ…でもできるだけ自然に話したい、と思いながら、
会計を済ませた咲葉さんに続いて、外に出る。
「公園のベンチで座って食べていい?」
『外アイス気持ちいいんだよねー』
無邪気に笑う咲葉さん。
「はい。」
会話は難しいけど、まだ一緒にいられるのは嬉しい。
「いい天気で気持ちいいねー。外でアイス食べるの久しぶり。」
『ひとりじゃできないことができて、幸せー』
役に立てたかな。よかった、と思いながらお茶を飲む。
…ひとりじゃできないこと、たくさん一緒にしたいな。でもどう言おう。
次は俺もアイス食べます、は変かな…。
考えていると、アイスを食べ終わった咲葉さんは言った。
「ビール飲みたくなってきた。外ビールも美味しいんだよねー。」
今度はビールかあ…。本当に好きなんだな。
「毎日、お酒を飲むんですか?」
「平日は飲まないようにしてる。」
『たまに飲んじゃうけど』
そんな感じがします、と言いそうになって、口をつぐむ。
心の声に返事するんじゃなくて…言ったことに返事しないと。
「えっと…だから週末、元気なかったんですか?」
「そう。あーあ、ばれちゃった。」
無邪気な咲葉さんの笑顔に心臓を掴まれて、目をそらせなくなる。
すると
『疲れた顔、見られちゃったんだ』
珍しく、戸惑ったような咲葉さんの声が聞こえた。
驚いて、俺は目をそらす。
…そうだよな。疲れた顔なんて、見られたくないよな…。しかも、話しかける前のことだし。
気持ち悪いよな。じろじろ見られてたんだって気づいたら。俺、ストーカーみたいだ…。
急に暗くなった俺の顔を見て
「あ、でも、アル中ではないから。」
『やばい。嫌われたかな』
ひきつったような笑顔で咲葉さんは言う。
…いや、全然嫌ってないです。
自分が嫌になってるだけで、咲葉さんのことは大好きです。
ああ、でも何て言ったらいいんた。
「…ごめんね、こんな話ばっかりで。」
『せっかく誘われたのに、ガッカリだよね…』
申し訳なさそうに咲葉さんが言うので、俺は抑えきれずに言ってしまった。
「全然平気です。っていうか、すごく楽しいです。
 大好きな咲葉さんと一緒にいられて、本当に幸せなんです。」
咲葉さんは驚いた顔で俺を見ている。言葉を失っているようだ。
やっちまったと思って、俺は目をそらす。
「ありがとう。私も楽しかったよ。」
咲葉さんは優しい声だが、俺は目を見れない。
「そろそろ帰ろうか。」
残念だ。でも…確かに限界かも。
心の声に反応しないふりして話すのは、こんなに難しかったんだな。
不甲斐ない自分が嫌で、咲葉さんの顔をよく見れないまま俺たちは別れた。
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