レインボウ☆アイズ

昨日の夜、家に帰ってからも、
あの個室での出来事は夢だったような気がして、しかたがなかった。
どうせ夢なら寝るか、と思って横になると、疲れていたのかすぐに眠れた。
夢の中で、俺は咲葉さんをずっと待っていたが、いつまでたっても現れなかった。
あ、きた、と思ったら、目覚ましが鳴った。
デジャブだったらどうしよう、そう思いながら、俺はベンチで咲葉さんを待っている。
しっかり寝たのに、夢の中でずっと心配していたせいか、何だか疲れていた。
咲葉さんが歩いてくるほうを見ていたいけど、人に酔ってしまいそうで、俺は視線を落とす。
すると、すぐに大好きな声が聞こえた。
「おはよう。敦哉君。」
顔を上げると咲葉さんが笑っている。
『疲れてるかな』
「おはようございます。…咲葉さんの顔を見たら、元気が出ました。」
心配かけないように、と思って言ったが、言い終わると、本当に元気が出た気がした。
「…よかった。」
『可愛い…』
心の声が途中まで聞こえて、咲葉さんは目をそらす。
「…今の聞こえた?」
「はい…。すみません。」
「なるほど、こんな感じでバレるんだ…。」
嫌になっちゃったかな…。
咲葉さんの顔を見ると、笑っている。でも目は合わない。
電車に乗り、いつもの場所に立って、俺は言った。
「咲葉さん、外見てていいですよ。」
俺と向かい合っていたら、咲葉さんは疲れてしまうだろう。
そう思ったのだが、咲葉さんは俺の顔を見て言った。
「ううん。大丈夫。」
『敦哉君の可愛い顔、見ていたいから。』
俺は、全身の血が一気に顔に集まったような気がして、目をそらす。
でも、まだ見られているような気がして、咲葉さんを見るとやっぱり目が合った。
『そっか。私がこんなことばかり考えてるから、いつも目が合わないんだ。』
そうです、と答えるように俺はうなずいた。
『見られるの、イヤ?』
イヤ、ではないけど…。
「恥ずかしいです。」
俺の声は言わないと聞こえないから、しかたなく言った。
「じゃあ、よかった。」
独り言みたいにならないようにと、咲葉さんは声に出してくれたんだろうけど、
会話になっていない気がする…。
そろそろ寝てくれないかな、と思って見ると、まだ咲葉さんは俺を見ていた。
『目を合わせたくなくて、前髪を伸ばしてるの?』
はい、と俺はうなずく。
『じゃ、今はいらないね。』
どういう意味?と思っていると、咲葉さんの手が伸びてきて、俺の前髪をあげた。
『いいじゃーん。かっこいいよ。』
急に視界が開けて、驚く俺をよそに、満足そうな咲葉さん。
…やっぱり、咲葉さんが大好きだ。
変な能力がある俺なのに、こんなふうに接してくれて。
嬉しくて、やっぱり泣きそうだ。
咲葉さんにバレないように外を見て、心を静めてまた見ると、目が合った。
咲葉さんは心配そうな顔で俺を見上げている。
『嫌だった?』
俺は笑って、いいえ、と首を振る。
『敦哉君の声も聞こえればいいのにな。』
聞こえたら大変なことになりますよ。ウジウジでうざったいと思います…。
俺は、咲葉さんの声が聞けてよかったな。
心の声が聞けて良かった、と思うのは、初めてかもしれない。
幸せだな、と思って、また涙が出そうになる。
ごまかすために外を見ると、もうすぐ降りる駅だ。
「咲葉さん、今日も寝れなかったですね。」
「うん…。」
『敦哉君が、寝かせてくれなかった。』
咲葉さんはにやっと笑って、心の中でつぶやいた。
もう…咲葉さんは…。でもそのきわどい表現がうれしくて、また恥ずかしい。
俺の心の声は聞かれなくて本当によかったな、と思う。
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