レインボウ☆アイズ
保健室に入ると、祐子さんが俺の顔をじっと見る。
「おはよう、敦哉。…その髪型どうしたの。」
『おでこ全開だけど』
あ、と気付いて、急いで直す。咲葉さんに前髪をあげられたままだった。
だから妙に人と目が合ったんだ…。
「昨日、咲葉ちゃんと会って、何かが変わったのね…。」
相変わらず祐子さんは鋭い。
「うん…。咲葉さん、心の声を聞かれても全然平気そうだった。」
むしろ、遊ばれた…。電車の中でのことを思い出して、にやけそうになる。
「そう。よかったじゃない。」
そう言って祐子さんは、手に持っていた薬品を棚にしまった。
「うん…。」
祐子さんが背中を向けたので、笑いながら答える。…本当に良かった。
「…敦哉に本当に彼女ができたのねー…。」
『よかったわねえ』
感慨深そうに言って、祐子さんは俺の前に座る。
「いや、好きとは言われてないから、彼女ではないと思う。」
そういえば、俺は”好き”って言ったけど、また”ありがとう”って返されたな…。
「…なんで可愛いとか思うのか、聞かなかったの?」
祐子さんの目が冷たいので、目をそらす。
「うん…。」
「意味ないわねー…。」
「そんなことないよ。嫌がられなかっただけで嬉しいよ…。」
恐る恐る見ると、やっぱり祐子さんの目は冷たい。
「聞きたいことを聞くために、心の声が聞こえることを言ったんじゃなかったっけ?」
『意気地なし』
俺はむっとして言い返した。
「だって仕方ないじゃん。本当のことを言うだけで、精一杯だったんだから。
 絶対に気持ち悪がられると思ってたのに、そうじゃなかったから嬉しくて…。」
祐子さんの顔が冷たいままなので、俺は頬杖をついて外を見た。
「咲葉さんが俺を好きかどうかは、これからゆっくり聞けばいいよ。」
自分で言ってみて、本当にその通りだと思う。
今は、本当のことをわかってもらえただけで、十分だ。
咲葉さんが俺を好きかどうかはわからないけど、
変わらずに接してくれているんだから、これからもっと仲良くなれるはず。
咲葉さんの本当の気持ちは、その時に聞いたっていい。
…この先には幸せしかない気がする。
幸せに浸り始めた俺を気にせず、祐子さんは冷たく言い返した。
「そんなんじゃすぐに男ができて、敦哉になんか構ってくれなくなるわよ。」
…そうなのかなあ。
確かに、その候補はいるみたいだけど。
いや、俺のほうがいいようなこと言ってたし…。
でも高校生だから、とも言ってたな…。
幸せだった俺の心に、暗雲が立ちこめる。
その黒い雲をかき消すように、俺は言った。
「でも、これからも仲良くしたいって言ってくれたよ…。」
口を尖らせて俺が言うと、祐子さんの目が鋭く光る。
「じゃあ、尚更、今すぐに畳み掛けていかないと…。
 週末はデートに誘いなさい。どこに行こうかしらね…。」
鋭い目のまま、祐子さんは考えている。
デートは行きたいけど、混んでるところには行きたくないな…。
でも、獲物を見つけた祐子さんには、どんな言葉も届く気がしない。
予鈴が鳴る前だけど、教室に避難しようと俺は立ち上がる。
「どこに行きたいか、敦哉も考えてねー。」
祐子さんの声が追いかけてきたが、俺は逃げるように保健室を出た。
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