レインボウ☆アイズ
結構美味しいビールらしいけど、咲葉さんは何も言わずに遠くを見ている。
口に合わなかったんだろうか。
心配していると、咲葉さんはゆっくり俺の顔を見て言った。
「…敦哉君は、生まれたときから心の声が聞こえるの?」
『聞いてもいいかな…』
聞くかどうか迷ってたんだな。俺は笑顔で答えた。
「そうらしいです。赤ちゃんの時からよく泣く子で、
特に親と仲の悪い相手に抱かれると、よく泣いてたそうです。
そのころは言葉じゃなくて、相手の感情を感じてたのかもしれないですね。」
咲葉さんは目を伏せて、頷きながら聞いている。
「言葉を話し始めたら、おかしなことばかり言うから、驚いたって聞きました。
障害児かと思ったらしいんですけど、両親も使用人たちも、
俺の言ってることと、自分の気持ちが合ってるって気づいてくれて…。」
『そうなんだ…』
咲葉さんと目が合って、優しい心の声が聞こえる。
俺は安心して、話を続けた。
「それで、辞めちゃった使用人もいたみたいですけど、ほとんどの人は続けてくれて、
俺みたいな変なやつの世話をしてくれてるんです。」
咲葉さんは微笑んで頷いている。
その優しい微笑みは、俺の心を溶かすようだ。
「小さい頃からのつきあいだから、みんな優しくて、扱いにも慣れてるし…、
みんながいるから生きてこれたなって思います。」
「…敦哉君は、優しい人達に囲まれて育ったんだね。」
『よかった』
安心したような心の声が聞こえた。
咲葉さんは、俺がどうやって育ったのかを心配してくれてたんだな。
「だから、敦哉君も優しいんだね。」
「それはどうなのかな…。優しいんでしょうか。自分ではわからないです。」
「優しいよ。こんな酔っぱらいのOLと遊んでくれて。」
そう言って笑い、咲葉さんはビールを飲む。
「それは逆ですよ。こんな俺と話してくれる咲葉さんが、優しいんです。」
咲葉さんはふふっと笑って言った。
「まあ、お互い優しいってことで…お腹空いたね。」
「はい、お弁当出しますね。」
俺が弁当を広げていると、咲葉さんが声を上げた。
「すごーい!豪華…。海老が入ってるー。
…もしかして、敦哉君はこんなご馳走を毎日食べてるの?」
目を輝かせて、咲葉さんが言う。
「いや…今日は、張りきって作ってくれたみたいです…。」
いつもの弁当と同じ感じだけど、ここは言わないでおこう。
きっと引いちゃうよな…。
「なんだか申し訳ないなー。やっぱりお土産、持ってくればよかったかなー。」
『何かお礼しないとー』
「大丈夫です。来てくれただけで本当に嬉しいし、みんなもすごく喜んでくれたんです。
俺が女の子を連れてくるの、初めてなんで。」
「そっかあ。やっぱりそうなんだ…。」
咲葉さんはそう言って、弁当に目を戻す。
やっぱり咲葉さんもわかってたんだな。俺が女の子に慣れてないってこと。
余計なこと、言っちゃったかな…。
俺が後悔に包まれていると、
「…敦哉君、何食べる?適当に盛っちゃっていい?」
皿を持って、咲葉さんは言った。
「はい。ありがとうございます。」
「どうぞー。…本当においしそう。いただきまーす。」
咲葉さんは手早く取り分けて、笑顔で食べ始めた。
…本当のところ、咲葉さんはどう思ってるんだろう。
仲良くしたいって言ってくれたけど、それは友達として、なんだろうか。
どんなつもりで、ここにいてくれるんだろう。
そんなことを考えていたら、思わず言ってしまっていた。
「あの…咲葉さんを好きな男の人と、今でもご飯を食べに行くんですか。」
言って、すぐに後悔する。
まだ食べ始めたばかりなのに、このタイミングで言うことじゃないだろ…。
咲葉さんの顔を見れないでいると、
「もう断るようにした。その人にも悪いからね。」
何でもないことのように、咲葉さんは言った。
「付き合う気はないって自分でもわかってたんだけど、
私を好きになってくれる人は貴重だったから、なかなか断れなかった。」
『モテないからね…』
そうなんだ…。そんなことないのに。
でも、安心して顔が緩んでしまうので、俺は下を向いた。
「敦哉君見てたら、私もちゃんと向き合わないとなって思って。
…心の声が聞こえることを私に言うの、すごく勇気が必要だったでしょ?」
「はい…。」
不意に聞かれて、俺は顔をあげる。
「敦哉君の一生懸命な姿を見てたら、自分が恥ずかしくなった。
仕事に飽きてたから、適当に付き合って結婚しちゃおうかと思ったんだけど、
現実からただ逃げてるだけだって気づいた。」
『言ってみると、我ながらカッコ悪いな…』
そう言って、咲葉さんは笑った。
「でも敦哉君と会ってから、心の声が聞こえるってどんな感じなんだろうっていつも考えてて、
イヤミ言う上司なんて、ろくなこと考えてないはずだって思うけど、
そういう私がろくなこと考えてないなって気づいて、笑っちゃうんだ。」
咲葉さんが楽しそうに笑って言うから、俺も笑ってしまう。
「嫌なやつも好きな人も、みんな色々なことを考えて生きてるんだなって思うと、
みんな可愛くて愛しいなって感じて…。」
俺の顔を見て、咲葉さんは言った。
「敦哉君のおかげで最近楽しいんだよ。
…敦哉君と会えて、本当によかった。ありがとう。」
咲葉さんは、まっすぐに俺を見て笑っている。心の声は聞こえない。
…会えて良かった。聞いたことがない言葉に、俺は呆然としていた。
だんだん咲葉さんの顔が滲んでいく。すると、声が聞こえた。
『泣いちゃった?』
はっとして俺は下を向いて、目をこする。
「ごめんね、変なこと言って…。嫌なこと、思い出しちゃった?」
下を向いたまま、俺は首を振る。
「違います。…嬉しくて…。」
そう言う声が震えて、自分が嫌になる。
今度は恥ずかしくて顔を上げられない。
どうしようかと思っていると、髪に何かが触れてくすぐったい。
見ると、咲葉さんが頭を撫でていた。
「じゃ、よかった。」
そう言って、咲葉さんはまだ頭を撫でる。
何だか犬になった気分…。
咲葉さんの手の感触を味わおうと、髪に全神経が集中している。
恥ずかしいけど、手のひらの温度が心地いい。
そう思っていると、その温度が耳に移動して、驚き、体がビクッと動く。
「…ごめん。」
『我慢できなかった』
咲葉さんが言って、目をそらす。
え…?どういう意味?我慢できなかったって…。
「お腹空いたね、食べよう。」
箸を持ち、咲葉さんは言って食べ始める。
何が我慢できなかったんだろうか。
我慢できなくて耳を触るって、どういうことなんだろう。
考えるが、鼓動が激しくなり、顔が赤くなるだけなので、やめることにした。
口に合わなかったんだろうか。
心配していると、咲葉さんはゆっくり俺の顔を見て言った。
「…敦哉君は、生まれたときから心の声が聞こえるの?」
『聞いてもいいかな…』
聞くかどうか迷ってたんだな。俺は笑顔で答えた。
「そうらしいです。赤ちゃんの時からよく泣く子で、
特に親と仲の悪い相手に抱かれると、よく泣いてたそうです。
そのころは言葉じゃなくて、相手の感情を感じてたのかもしれないですね。」
咲葉さんは目を伏せて、頷きながら聞いている。
「言葉を話し始めたら、おかしなことばかり言うから、驚いたって聞きました。
障害児かと思ったらしいんですけど、両親も使用人たちも、
俺の言ってることと、自分の気持ちが合ってるって気づいてくれて…。」
『そうなんだ…』
咲葉さんと目が合って、優しい心の声が聞こえる。
俺は安心して、話を続けた。
「それで、辞めちゃった使用人もいたみたいですけど、ほとんどの人は続けてくれて、
俺みたいな変なやつの世話をしてくれてるんです。」
咲葉さんは微笑んで頷いている。
その優しい微笑みは、俺の心を溶かすようだ。
「小さい頃からのつきあいだから、みんな優しくて、扱いにも慣れてるし…、
みんながいるから生きてこれたなって思います。」
「…敦哉君は、優しい人達に囲まれて育ったんだね。」
『よかった』
安心したような心の声が聞こえた。
咲葉さんは、俺がどうやって育ったのかを心配してくれてたんだな。
「だから、敦哉君も優しいんだね。」
「それはどうなのかな…。優しいんでしょうか。自分ではわからないです。」
「優しいよ。こんな酔っぱらいのOLと遊んでくれて。」
そう言って笑い、咲葉さんはビールを飲む。
「それは逆ですよ。こんな俺と話してくれる咲葉さんが、優しいんです。」
咲葉さんはふふっと笑って言った。
「まあ、お互い優しいってことで…お腹空いたね。」
「はい、お弁当出しますね。」
俺が弁当を広げていると、咲葉さんが声を上げた。
「すごーい!豪華…。海老が入ってるー。
…もしかして、敦哉君はこんなご馳走を毎日食べてるの?」
目を輝かせて、咲葉さんが言う。
「いや…今日は、張りきって作ってくれたみたいです…。」
いつもの弁当と同じ感じだけど、ここは言わないでおこう。
きっと引いちゃうよな…。
「なんだか申し訳ないなー。やっぱりお土産、持ってくればよかったかなー。」
『何かお礼しないとー』
「大丈夫です。来てくれただけで本当に嬉しいし、みんなもすごく喜んでくれたんです。
俺が女の子を連れてくるの、初めてなんで。」
「そっかあ。やっぱりそうなんだ…。」
咲葉さんはそう言って、弁当に目を戻す。
やっぱり咲葉さんもわかってたんだな。俺が女の子に慣れてないってこと。
余計なこと、言っちゃったかな…。
俺が後悔に包まれていると、
「…敦哉君、何食べる?適当に盛っちゃっていい?」
皿を持って、咲葉さんは言った。
「はい。ありがとうございます。」
「どうぞー。…本当においしそう。いただきまーす。」
咲葉さんは手早く取り分けて、笑顔で食べ始めた。
…本当のところ、咲葉さんはどう思ってるんだろう。
仲良くしたいって言ってくれたけど、それは友達として、なんだろうか。
どんなつもりで、ここにいてくれるんだろう。
そんなことを考えていたら、思わず言ってしまっていた。
「あの…咲葉さんを好きな男の人と、今でもご飯を食べに行くんですか。」
言って、すぐに後悔する。
まだ食べ始めたばかりなのに、このタイミングで言うことじゃないだろ…。
咲葉さんの顔を見れないでいると、
「もう断るようにした。その人にも悪いからね。」
何でもないことのように、咲葉さんは言った。
「付き合う気はないって自分でもわかってたんだけど、
私を好きになってくれる人は貴重だったから、なかなか断れなかった。」
『モテないからね…』
そうなんだ…。そんなことないのに。
でも、安心して顔が緩んでしまうので、俺は下を向いた。
「敦哉君見てたら、私もちゃんと向き合わないとなって思って。
…心の声が聞こえることを私に言うの、すごく勇気が必要だったでしょ?」
「はい…。」
不意に聞かれて、俺は顔をあげる。
「敦哉君の一生懸命な姿を見てたら、自分が恥ずかしくなった。
仕事に飽きてたから、適当に付き合って結婚しちゃおうかと思ったんだけど、
現実からただ逃げてるだけだって気づいた。」
『言ってみると、我ながらカッコ悪いな…』
そう言って、咲葉さんは笑った。
「でも敦哉君と会ってから、心の声が聞こえるってどんな感じなんだろうっていつも考えてて、
イヤミ言う上司なんて、ろくなこと考えてないはずだって思うけど、
そういう私がろくなこと考えてないなって気づいて、笑っちゃうんだ。」
咲葉さんが楽しそうに笑って言うから、俺も笑ってしまう。
「嫌なやつも好きな人も、みんな色々なことを考えて生きてるんだなって思うと、
みんな可愛くて愛しいなって感じて…。」
俺の顔を見て、咲葉さんは言った。
「敦哉君のおかげで最近楽しいんだよ。
…敦哉君と会えて、本当によかった。ありがとう。」
咲葉さんは、まっすぐに俺を見て笑っている。心の声は聞こえない。
…会えて良かった。聞いたことがない言葉に、俺は呆然としていた。
だんだん咲葉さんの顔が滲んでいく。すると、声が聞こえた。
『泣いちゃった?』
はっとして俺は下を向いて、目をこする。
「ごめんね、変なこと言って…。嫌なこと、思い出しちゃった?」
下を向いたまま、俺は首を振る。
「違います。…嬉しくて…。」
そう言う声が震えて、自分が嫌になる。
今度は恥ずかしくて顔を上げられない。
どうしようかと思っていると、髪に何かが触れてくすぐったい。
見ると、咲葉さんが頭を撫でていた。
「じゃ、よかった。」
そう言って、咲葉さんはまだ頭を撫でる。
何だか犬になった気分…。
咲葉さんの手の感触を味わおうと、髪に全神経が集中している。
恥ずかしいけど、手のひらの温度が心地いい。
そう思っていると、その温度が耳に移動して、驚き、体がビクッと動く。
「…ごめん。」
『我慢できなかった』
咲葉さんが言って、目をそらす。
え…?どういう意味?我慢できなかったって…。
「お腹空いたね、食べよう。」
箸を持ち、咲葉さんは言って食べ始める。
何が我慢できなかったんだろうか。
我慢できなくて耳を触るって、どういうことなんだろう。
考えるが、鼓動が激しくなり、顔が赤くなるだけなので、やめることにした。