レインボウ☆アイズ
すると、ドアをノックする音がした。
「敦哉様、お茶をお持ちいたしました。」
「ありがとう。」
そう言って、俺はドアを開けた。
「失礼いたします。」
修がワゴンを押して、部屋に入る。
そして、紅茶をカップに注ぎ、ケーキをテーブルに置いた。
咲葉さんはキラキラした目で、その様子を見ている。
ずいぶん慣れたし、酔いもさめたみたい。…家に呼んでよかったな。
そう思っていると、修が言った。
「敦哉様、祐子様がこちらに来たいとおっしゃられていますが…。」
え?絶対来ないでって言ったのに…。
迷惑そうな俺の顔を見て、修は笑って言う。
「…お断りしますね。…では、失礼します。」
出て行く修に咲葉さんは会釈して、言った。
「誰か来るの?帰ったほうがいい?」
『祐子様って…女の人…』
そこまで聞こえて咲葉さんは目を伏せた。
戸惑った顔に驚いて俺は言う。
「叔母なんです。咲葉さんに会いたがってて…。」
すぐに咲葉さんは笑顔になって言った。
「そうなんだ。…敦哉君、すごい顔してたから、彼女ではないと思ったけど…。」
そして少し恥ずかしそうに目を伏せた。
彼女なんているわけないのに。でも…ちょっと妬いてくれたんだろうか。
だとしたら嬉しい。
密かに喜んでいると、咲葉さんは言った。
「…敦哉君、普通の女子高生を好きになればよかったのに。」
目を伏せているから咲葉さんの真意はわからないが、なんだか嫌な予感がする。
しかたがないので、俺は正直に答えることにした。
「好きになったことはありますよ。
 でも心の声を聞いて、落ち込んで終わってしまいました。」
「どんな声?」
「キモイ、とか、飼い犬に似てる、とか。」
「それなら私もちょっと思ったよ?
 …初めて電車で見たときは、なんかモサッとしたのが来たなあって思った。」
『同じじゃん。』
「そうですか…。でも可愛いって言ってませんでした?」
さらっと言ってみたけど、段々顔が熱くなってきた。
「うん。よく見たら可愛かった。
 …その子も仲良くなれば、敦哉君の良さに気づいたんじゃない?」
そうなのかな…。でも、結果的にそうならなかったってことは、
仲良くならなくてもいい子だったんじゃないかな、と思うんだけど…。
うまく伝えられる気がしない。
「それに、今の敦哉君を見たら、キモイと思わないかもよ。」
『今はちゃんとイケメンだし』
確かに、キモイと思われたほうが楽だから、髪をボサボサにして前髪も伸ばしてた。
だから恋を終わらせてしまったのは、俺に問題があっただけなのかもしれない。
でも…。なんだか心がザワザワする。
「やっぱり高校生は、高校生同士つきあったほうがいいよ。
 敦哉君、ちゃんとすれば絶対にモテるから。」
『OL相手じゃないほうがいいよ』
予想通り、すごく嫌な話になってきた。
俺は、多分むっとしていたんだと思う。
「でも普通の人が、俺の能力を理解してくれるとは思えません。」
と勢いよく言ってから、しまった、と後悔する。
「まあ、私は普通の人じゃないよね…。」
『はっきり言われたー』
でも咲葉さんは少し笑っている。やっぱり普通の人ではないと思う。
「ごめんなさい…。でも俺は、咲葉さんみたいに器の広い人がいいです。」
「意外とちっちゃいよ?器。すぐめんどくさくなるし。
 元カレとは、めんどくさくなって別れちゃったし。
 休みの日は酒飲んでゴロゴロしてるし…。色々我慢できないし。」
目を見ないで咲葉さんは言う。多分俺は、拗ねた顔になっているだろう。
「わかりました…。俺に好かれるなんて、迷惑ですよね。」
俺が呟くと、睨むように見て咲葉さんは言った。
「そんなこと、言ってないじゃん。」
『いじけちゃってー』
はあ、とわかりやすくため息をついて、咲葉さんは続けた。
「あのさ、俺なんか、とかそういうこと言うのやめて。
 …敦哉君を好きな私が、否定されてるみたいで嫌だ。」
『イラっとする』
言葉と裏腹な心の声が聞こえて、照れていいのかどうかよくわからない。
でもここは、ちゃんと聞かないと。
「俺のこと…、好き、ですか?」
「好きだよ?」
『可愛いし』
「…それって、犬みたいで好きってことですか?」
ふっと笑って、咲葉さんは言った。
「それもあるね。ふわふわだし。ぬいぐるみみたいでいい。」
なんだか余裕の笑みだ。悔しいから、くらいついて聞く。
「男として、好きってことではないんですか?」
「…さて、どうかなー。」
咲葉さんは窓の外を見て言う。
ここまで話しといて、それは無いでしょ…。
咲葉さんと一緒にいるためなら、俺は何でもできる気がする。
俺は立ち上がって、咲葉さんの目の前に立ち、顔を覗き込んだ。
「はぐらかさないでください。」
『ずるーい。急に男の顔して…』
咲葉さんは俺から目をそらして、うつむく。
ずるいかな…。でも、確かに心の声を聞こうとしたし、正攻法ではないか。
きちんと伝えないといけないと思い、俺は咲葉さんの足元にひざまずいて、手を握った。
「咲葉さん、好きです。俺とつきあってください。」
『う…。それもずるいよ…』
そして、咲葉さんはうなだれた。…ずるかったかな?
ちゃんと言ったつもりだったんだけど…。
考えていると、咲葉さんは顔をあげた。
「ありがとう。少し考えさせて。」
笑ってそう言ったが、すぐに目をそらされた。
まあ、ここは仕方ないか…。しつこくすると嫌われるだろう。
「はい。待ってます。」
握った手を離すのが惜しいと思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
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