レインボウ☆アイズ
「お茶のおかわりをお持ちしました。」
ドアの外で修の声がする。
俺は咲葉さんの手を離し、立ち上がってドアを開けた。
「ありがとう。」
トレーを持った修が、部屋の中に入る。
「失礼いたします。」
そう言って、修は紅茶をカップに注いだ。
「ありがとうございます。」
笑顔で答える咲葉さん。
「咲葉様…、ケーキのおかわりはいかがですか?」
咲葉さんは、驚いたように目を丸くして言う。
「い…いただきます…。」
「承知いたしました。少々お待ちください。」
そう答えて修は部屋を出た。
そのうしろ姿を、咲葉さんがじっと見つめているので
「咲葉さん、どうしたんですか?」
俺は聞いた。
「修さん、咲葉様って言ってたね…。」
嬉しそうに笑う咲葉さんと目が合って、心の声が聞こえる。
『かっこいい…』
すぐに咲葉さんは目をそらして、紅茶を飲んだ。
そりゃ、修はかっこいいけど…。一応言っておこうかな…。
「あの、修は結婚してます…。」
俺が言うと
「…うん、そうだよね。」
咲葉さんは目をそらしたまま、笑って言った。
…咲葉さんは修みたいな人が好きなのかな。…怖くて聞けない。
そう思っていると、
「失礼いたします。」
修がケーキを持って、部屋に戻ってきた。
「お待たせいたしました。」
そう言って、咲葉さんの前にケーキを置く。
「うわっ。さっきより素敵になっている…。」
「はい。食堂のものが、はりきって飾つけさせていただきました。」
「かわいいー。ありがとうございます。」
修と笑顔で話す咲葉さんを見ていたら、なんだか息苦しくなってきた。
ああ、ヤキモチだ…。まさか、修にヤキモチを妬くなんて思わなかった。
でも確かに、修はなんでもできるし、いつも冷静でかっこいい…。
何もできない子供の俺より、大人の修のほうがいいに決まっている。
勝負になったら、何をしても敵う気はしない。すでに負けは決定している。
…なのに、悔しい気持ちにはなるんだな。
敗北感に襲われていると、修が言った。
「敦哉様のケーキはお下げしてよろしいですか?」
食べかけのケーキの皿を、手のひらで指している。
「…うん。」
修の顔を見れずに俺が答えると
「このケーキ、生クリームと一緒に食べるとおいしいよ。」
咲葉さんがそう言って、俺の隣に座った。
「はい。あーんして。」
『拗ねてないでー』
咲葉さんの無邪気な心の声が、俺に突き刺さる。
俺が仕方なく口を開けると、咲葉さんがケーキを俺の口に入れた。
恥ずかしくて少ししか口が開かなかったので、クリームが唇につく。
それを咲葉さんが指で拭った。
「口を開けるのが小さいんだよー。」
言いながら咲葉さんは、クリームを拭った指を舐める。
「ね、おいしいでしょ?」
そう言う咲葉さんの向こうで、修が部屋を出て行くのが見えた。
「はい…。」
答えながら、冷静に仕事を淡々とこなす修と、
咲葉さんに、赤子のようにあやされている自分を比べて、虚しくなる。
すると咲葉さんが言った。
「私と付き合うと、こういうふうに適当な言動に、振り回されることになると思う。」
そう言って咲葉さんは、ケーキの皿を膝の上に置く。
「敦哉君が聞きたくないことかどうか、私は考えずに言っちゃうよ。
…それでも付き合いたいと思う?」
『たくさん傷つけちゃうよ』
言葉とは裏腹に優しい目で咲葉さんは言った。
…なんだろう、この気持ち。
もちろん傷つきたくはない。
でも咲葉さんとなら、振り回されて傷つけられても
それだけじゃ終わらない気がした。
言葉では表せそうにないけど、言ってみる。
「…どうせ誰かの言葉に傷つくんだったら、咲葉さんの言葉で傷つきたいです。」
咲葉さんは少し笑って下を向いたが、すぐに顔をあげて
「そっか。じゃ、付き合おうか。
…とは言えないんだけどねー。」
そう言い、ケーキを食べ始めた。
一瞬喜んでしまった自分を恥ずかしく感じながら、ふと思う。
もしかしたら、俺は咲葉さんに試されていたのかもしれない。
でも、それで咲葉さんの気が済むなら、どんどん試してほしいと思った。
ドアの外で修の声がする。
俺は咲葉さんの手を離し、立ち上がってドアを開けた。
「ありがとう。」
トレーを持った修が、部屋の中に入る。
「失礼いたします。」
そう言って、修は紅茶をカップに注いだ。
「ありがとうございます。」
笑顔で答える咲葉さん。
「咲葉様…、ケーキのおかわりはいかがですか?」
咲葉さんは、驚いたように目を丸くして言う。
「い…いただきます…。」
「承知いたしました。少々お待ちください。」
そう答えて修は部屋を出た。
そのうしろ姿を、咲葉さんがじっと見つめているので
「咲葉さん、どうしたんですか?」
俺は聞いた。
「修さん、咲葉様って言ってたね…。」
嬉しそうに笑う咲葉さんと目が合って、心の声が聞こえる。
『かっこいい…』
すぐに咲葉さんは目をそらして、紅茶を飲んだ。
そりゃ、修はかっこいいけど…。一応言っておこうかな…。
「あの、修は結婚してます…。」
俺が言うと
「…うん、そうだよね。」
咲葉さんは目をそらしたまま、笑って言った。
…咲葉さんは修みたいな人が好きなのかな。…怖くて聞けない。
そう思っていると、
「失礼いたします。」
修がケーキを持って、部屋に戻ってきた。
「お待たせいたしました。」
そう言って、咲葉さんの前にケーキを置く。
「うわっ。さっきより素敵になっている…。」
「はい。食堂のものが、はりきって飾つけさせていただきました。」
「かわいいー。ありがとうございます。」
修と笑顔で話す咲葉さんを見ていたら、なんだか息苦しくなってきた。
ああ、ヤキモチだ…。まさか、修にヤキモチを妬くなんて思わなかった。
でも確かに、修はなんでもできるし、いつも冷静でかっこいい…。
何もできない子供の俺より、大人の修のほうがいいに決まっている。
勝負になったら、何をしても敵う気はしない。すでに負けは決定している。
…なのに、悔しい気持ちにはなるんだな。
敗北感に襲われていると、修が言った。
「敦哉様のケーキはお下げしてよろしいですか?」
食べかけのケーキの皿を、手のひらで指している。
「…うん。」
修の顔を見れずに俺が答えると
「このケーキ、生クリームと一緒に食べるとおいしいよ。」
咲葉さんがそう言って、俺の隣に座った。
「はい。あーんして。」
『拗ねてないでー』
咲葉さんの無邪気な心の声が、俺に突き刺さる。
俺が仕方なく口を開けると、咲葉さんがケーキを俺の口に入れた。
恥ずかしくて少ししか口が開かなかったので、クリームが唇につく。
それを咲葉さんが指で拭った。
「口を開けるのが小さいんだよー。」
言いながら咲葉さんは、クリームを拭った指を舐める。
「ね、おいしいでしょ?」
そう言う咲葉さんの向こうで、修が部屋を出て行くのが見えた。
「はい…。」
答えながら、冷静に仕事を淡々とこなす修と、
咲葉さんに、赤子のようにあやされている自分を比べて、虚しくなる。
すると咲葉さんが言った。
「私と付き合うと、こういうふうに適当な言動に、振り回されることになると思う。」
そう言って咲葉さんは、ケーキの皿を膝の上に置く。
「敦哉君が聞きたくないことかどうか、私は考えずに言っちゃうよ。
…それでも付き合いたいと思う?」
『たくさん傷つけちゃうよ』
言葉とは裏腹に優しい目で咲葉さんは言った。
…なんだろう、この気持ち。
もちろん傷つきたくはない。
でも咲葉さんとなら、振り回されて傷つけられても
それだけじゃ終わらない気がした。
言葉では表せそうにないけど、言ってみる。
「…どうせ誰かの言葉に傷つくんだったら、咲葉さんの言葉で傷つきたいです。」
咲葉さんは少し笑って下を向いたが、すぐに顔をあげて
「そっか。じゃ、付き合おうか。
…とは言えないんだけどねー。」
そう言い、ケーキを食べ始めた。
一瞬喜んでしまった自分を恥ずかしく感じながら、ふと思う。
もしかしたら、俺は咲葉さんに試されていたのかもしれない。
でも、それで咲葉さんの気が済むなら、どんどん試してほしいと思った。