レインボウ☆アイズ
昼休みになると、早速俺は咲葉さんにメールをした。
『クビは大丈夫ですか?疲れてたら早退して休んでくださいね。』
…午後だけ有休を使う制度はあるんだろうか。
よく知らないけど、疲れきっていた咲葉さんが心配だ。
今日はもう祐子さんには会わないほうがいい気がするので、自分の机に弁当を出す。
実は教室で弁当を食べるのは初めてだが、
なんだか俺も疲れているので、どうでもいい気がした。
「あれ…今日は保健室行かないの?」
『まさか教室で食べるつもりなんだろうか…』
教室に来た和成が、驚いた顔で言った。
「うん。色々あって…。」
一言では説明できないので困っていると、
「恵美は生徒会で、俺もひとりなんだ。一緒に食べよう。」
和成が笑顔で言う。
「本当に?…よかったー。今日すごいことがあったんだよ。電車の中で…」
「外に行こうよ。ここで話せるならいいけど…。」
何も考えずに話し始める俺を遮るように、和成が言った。
そういえば、そうか。死にたいって聞いた、なんて誰かに聞かれたら大変だな。
「そうだね…。」
俺は弁当を鞄にしまって立ち上がった。
「それは疲れたね…。お疲れ様でした。」
俺の話を一通り聞いて、和成は苦笑いで言った。
「でも、祐子さんの気持ちもわかるな。…敦哉君、殴り合いした事ないよね?」
『あったら驚きだけど』
和成とは生まれたときからの付き合いだ。
俺のことで知らないことがあったら、それは驚くだろう。
そう思いながら、俺は答えた。
「うん。もちろんないよ…。」
「キレた男の力ってすごいものなんだよ。
咲葉さんを一人で行かせなかったのは正解だと思うけど、
できれば二人とも行ってほしくなかったな…。」
和成は目を伏せて言った。
「でも、ほっとけないだろうな。咲葉さんの性格じゃ。」
「そっか…。じゃ、敦哉君が強くならないとね。」
『鍛えて、奔放な咲葉さんを守らないと』
「そうだね…。修にお願いしてみようかな。」
修は空手でも合気道でもなんでもできるから、
このひ弱な俺でもなんとかしてくれるだろう。
咲葉さんを守れるようにならないとな、と思って携帯を見る。
咲葉さんからのメ-ルの返事は来ない。
大丈夫なんだろうか。…心配だなあ。
「咲葉さんに電話してもいいと思う?…疲れきっていたから心配で。」
「うん…。するなら早くしたほうがいいんじゃない?もうすぐ1時だよ。」
お茶を飲みながら時計を見て、和成は言った。
本当だ。1時5分前だ。…迷っている暇は無いな。
咲葉さんに電話をかけると、すぐに出た。
「もしもし。」
なんだか驚いたような声だ。
「咲葉さん?ごめんなさい。電話しちゃって…。」
怒っているのかもしれないと思い、とりあえず俺は謝った。
「うん…大丈夫だよ。」
優しい声だけど、なんとなく暗い気がする。
「会社、どうでした?…クビになっちゃいました?」
「うーん…クビではないけど…。うーん…」
咲葉さんは、なんだか言いづらそうにしている。
「電話じゃ話しづらいですか?
あの…今日の夜、会って聞かせてください。俺、駅で待ってます。」
明日電車でね、なんて言われたら、朝まで俺は一睡もできないだろう。
「うーん…。まだ決めてないから、会ってもなあ…。」
「決めてないって…どういうことですか?」
なんだかすごく嫌な予感がする。
すると、咲葉さんは意を決したように、はっきりとした声で言った。
「あのね…。転勤しないかって言われたの。大阪に。」
「大阪?転勤って…大阪の会社に行くってことですか?」
俺がそう言う電話の向こうで、チャイムのような音がした。
「そう…。もう切るね。また明日話そう。」
呆然としていると、ツーツー、という音が携帯から聞こえた。
驚いて携帯を見ると、やっぱり”通話終了”の文字。
明日話そうって…。何をどう話すの?…頭が混乱して動かない。
「…咲葉さん、大阪行くの?」
和成の声にハッとして顔をあげる。
『まさかとは思うけど』
和成が眉間にしわを寄せて、俺を見ていた。
「うん…。どうしよう。…俺、どうしたらいい?」
声が震えて、自分で驚く。
…いや、不思議じゃない。
咲葉さんがいなくなったら、生きていける気がしない。
簡単に死ぬなんて言ったら咲葉さんに怒られるけど、
咲葉さんがいない毎日なんて、死んでいるようなものだ。
「敦哉君、落ち着いて…。絶対大阪に行かなきゃいけない、
なんてことはないと思うよ…。」
そう言って、和成が俺の肩に手を当てた。
その手から和成の体温が伝わってきて、心細さが減っていく気がする。
…これが咲葉さんが言ってた”充電”なのかな。
そう思って顔を上げると、和成の声が聞こえた。
『咲葉さんの気持ちはどうなんだろうな…』
「…咲葉さんは、まだ決めてないって言ってた…。」
俺はその声に答えた。
「敦哉君は、咲葉さんに大阪に行ってほしくないんだよね。」
「…うん。」
咲葉さんがいなくなるなんて、考えられない。
「どうしても引き止める?…咲葉さんが行きたいって言っても。」
『咲葉さんの気持ちはどうする…?』
そんなことあるわけないよ。
だって、今度咲葉さんちに行く約束したもん。一緒にご飯作ろうって…。
手をつないで充電だって言ってた…。
なのに、大阪に行きたいのかな。…そんなはずはない。
でも、言い切れるわけでもない。
「咲葉さんがここに残りたいなら、断ることもできるだろうし、
転職するっていう方法もあると思う。でも、咲葉さんが行きたいんだったら…。」
そう言って和成は目をそらした。
…どうしようもないよな。
行きたいっていうのを、この俺が止められるわけがない。
「ありがとう…。和成がいてくれてよかった。」
俺は和成に言った。
こんな話を一人で聞いていたらと思うと、身震いがする。
一人じゃないって、こんなに心強いものなんだな。
…咲葉さんは、一人で考えて心細くないんだろうか。
”充電”は必要じゃないのかな…。
…違うな。”充電”が必要なのは俺だ。
俺が咲葉さんに会いたいんだ。
「和成…。今日は仕事中でもメールしていいよね。」
携帯を見つめて、俺は言った。
「うん。いいと思う。緊急事態だよ。」
和成の言葉に背中を押されて、俺はメールを打った。
『今日会いたいです。夜、駅で待ってます。』
『クビは大丈夫ですか?疲れてたら早退して休んでくださいね。』
…午後だけ有休を使う制度はあるんだろうか。
よく知らないけど、疲れきっていた咲葉さんが心配だ。
今日はもう祐子さんには会わないほうがいい気がするので、自分の机に弁当を出す。
実は教室で弁当を食べるのは初めてだが、
なんだか俺も疲れているので、どうでもいい気がした。
「あれ…今日は保健室行かないの?」
『まさか教室で食べるつもりなんだろうか…』
教室に来た和成が、驚いた顔で言った。
「うん。色々あって…。」
一言では説明できないので困っていると、
「恵美は生徒会で、俺もひとりなんだ。一緒に食べよう。」
和成が笑顔で言う。
「本当に?…よかったー。今日すごいことがあったんだよ。電車の中で…」
「外に行こうよ。ここで話せるならいいけど…。」
何も考えずに話し始める俺を遮るように、和成が言った。
そういえば、そうか。死にたいって聞いた、なんて誰かに聞かれたら大変だな。
「そうだね…。」
俺は弁当を鞄にしまって立ち上がった。
「それは疲れたね…。お疲れ様でした。」
俺の話を一通り聞いて、和成は苦笑いで言った。
「でも、祐子さんの気持ちもわかるな。…敦哉君、殴り合いした事ないよね?」
『あったら驚きだけど』
和成とは生まれたときからの付き合いだ。
俺のことで知らないことがあったら、それは驚くだろう。
そう思いながら、俺は答えた。
「うん。もちろんないよ…。」
「キレた男の力ってすごいものなんだよ。
咲葉さんを一人で行かせなかったのは正解だと思うけど、
できれば二人とも行ってほしくなかったな…。」
和成は目を伏せて言った。
「でも、ほっとけないだろうな。咲葉さんの性格じゃ。」
「そっか…。じゃ、敦哉君が強くならないとね。」
『鍛えて、奔放な咲葉さんを守らないと』
「そうだね…。修にお願いしてみようかな。」
修は空手でも合気道でもなんでもできるから、
このひ弱な俺でもなんとかしてくれるだろう。
咲葉さんを守れるようにならないとな、と思って携帯を見る。
咲葉さんからのメ-ルの返事は来ない。
大丈夫なんだろうか。…心配だなあ。
「咲葉さんに電話してもいいと思う?…疲れきっていたから心配で。」
「うん…。するなら早くしたほうがいいんじゃない?もうすぐ1時だよ。」
お茶を飲みながら時計を見て、和成は言った。
本当だ。1時5分前だ。…迷っている暇は無いな。
咲葉さんに電話をかけると、すぐに出た。
「もしもし。」
なんだか驚いたような声だ。
「咲葉さん?ごめんなさい。電話しちゃって…。」
怒っているのかもしれないと思い、とりあえず俺は謝った。
「うん…大丈夫だよ。」
優しい声だけど、なんとなく暗い気がする。
「会社、どうでした?…クビになっちゃいました?」
「うーん…クビではないけど…。うーん…」
咲葉さんは、なんだか言いづらそうにしている。
「電話じゃ話しづらいですか?
あの…今日の夜、会って聞かせてください。俺、駅で待ってます。」
明日電車でね、なんて言われたら、朝まで俺は一睡もできないだろう。
「うーん…。まだ決めてないから、会ってもなあ…。」
「決めてないって…どういうことですか?」
なんだかすごく嫌な予感がする。
すると、咲葉さんは意を決したように、はっきりとした声で言った。
「あのね…。転勤しないかって言われたの。大阪に。」
「大阪?転勤って…大阪の会社に行くってことですか?」
俺がそう言う電話の向こうで、チャイムのような音がした。
「そう…。もう切るね。また明日話そう。」
呆然としていると、ツーツー、という音が携帯から聞こえた。
驚いて携帯を見ると、やっぱり”通話終了”の文字。
明日話そうって…。何をどう話すの?…頭が混乱して動かない。
「…咲葉さん、大阪行くの?」
和成の声にハッとして顔をあげる。
『まさかとは思うけど』
和成が眉間にしわを寄せて、俺を見ていた。
「うん…。どうしよう。…俺、どうしたらいい?」
声が震えて、自分で驚く。
…いや、不思議じゃない。
咲葉さんがいなくなったら、生きていける気がしない。
簡単に死ぬなんて言ったら咲葉さんに怒られるけど、
咲葉さんがいない毎日なんて、死んでいるようなものだ。
「敦哉君、落ち着いて…。絶対大阪に行かなきゃいけない、
なんてことはないと思うよ…。」
そう言って、和成が俺の肩に手を当てた。
その手から和成の体温が伝わってきて、心細さが減っていく気がする。
…これが咲葉さんが言ってた”充電”なのかな。
そう思って顔を上げると、和成の声が聞こえた。
『咲葉さんの気持ちはどうなんだろうな…』
「…咲葉さんは、まだ決めてないって言ってた…。」
俺はその声に答えた。
「敦哉君は、咲葉さんに大阪に行ってほしくないんだよね。」
「…うん。」
咲葉さんがいなくなるなんて、考えられない。
「どうしても引き止める?…咲葉さんが行きたいって言っても。」
『咲葉さんの気持ちはどうする…?』
そんなことあるわけないよ。
だって、今度咲葉さんちに行く約束したもん。一緒にご飯作ろうって…。
手をつないで充電だって言ってた…。
なのに、大阪に行きたいのかな。…そんなはずはない。
でも、言い切れるわけでもない。
「咲葉さんがここに残りたいなら、断ることもできるだろうし、
転職するっていう方法もあると思う。でも、咲葉さんが行きたいんだったら…。」
そう言って和成は目をそらした。
…どうしようもないよな。
行きたいっていうのを、この俺が止められるわけがない。
「ありがとう…。和成がいてくれてよかった。」
俺は和成に言った。
こんな話を一人で聞いていたらと思うと、身震いがする。
一人じゃないって、こんなに心強いものなんだな。
…咲葉さんは、一人で考えて心細くないんだろうか。
”充電”は必要じゃないのかな…。
…違うな。”充電”が必要なのは俺だ。
俺が咲葉さんに会いたいんだ。
「和成…。今日は仕事中でもメールしていいよね。」
携帯を見つめて、俺は言った。
「うん。いいと思う。緊急事態だよ。」
和成の言葉に背中を押されて、俺はメールを打った。
『今日会いたいです。夜、駅で待ってます。』