十一ミス研推理録 ~自殺屋~
『人殺し社長は謝罪の会見すべき』
『不況だから仕方ないにしても……虚しすぎる』
『他の会社でも公開自殺する人、出るんじゃないか?』
 再び、公開自殺事件の湯は沸騰した。掲示板に書き込みをした者たちのほとんどが、不当に解雇された経験を持つ派遣社員、パート、アルバイトの者達だった。
 同時に不当解雇撲滅を謳い、解雇をされた者がいた会社、解雇された人数、その決定をした社員の氏名を公開するサイトが現れた。
 責任を問われた社員の中には、自らも辞職せざる負えない状況に陥り、心労から自殺する者まで現れた。
 会社を守るために人材を削ることにした。俺たちにも生活がある。家庭がある。だから、雇用期間が切れた君はやめてくれ。それが社会ってものだ。
 管理職の者はそう思っていたに違いない。
 しかし、切られた者にしてみれば精神を切り裂かれる思いだったはずだ。もう自分以外の犠牲者が出てほしくない。だからこそ、公開自殺を実行したのであろう。

【私の死で、社の方針が変わってくれたら……それが願いです。
 みなさんさようなら。お元気で】

 公開自殺をした社員は、まさか上司が後を追い、自分と同じ場所に来るとは思ってもいなかっただろう。文章の通り、社の方針が変わってくれたらという願いだけだったはずだ。
 会社員が思っていたであろうそんな気持ちが受け入れられることはなく、沸騰した湯はなかなか冷めなかった。書き込みは日を追うごとに増えていった。
 が、そんな掲示板の書き込みが増していく一方で、あることが囁かれはじめたのだ。
 それは、
『最初に公開自殺をした少女は、ある人物とメール交換をしていた』
『中学生が公開自殺を考えたり、カメラを購入する金があるとは思えない。裏の者がいる』
 という、まことしやかな噂であった。
 再び公(おおやけ)での記者会見を求められた警察は、捜査中とだけ発表した。
 が、一方で、自殺した少女はホームページ以外のデータを全てソフトで消去しており、メール交換をしていたという証拠は見つからなかったと告げた。
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