十一ミス研推理録 ~自殺屋~
 そうなれば、遥に臓器が提供されるかもしれない。谷分はそう考えたのだろう。
 同時に、谷分は日野と自分の苦しみを解消する方法も取った。自殺を考えさせた者たちに対しての復讐だ。
 そして、公開自殺の標的として一番に決めたのは日野をいじめていた、小林沙耶だった。
「公開自殺をすれば、すぐに警察が駆けつけてくれる。そうすれば、脳死状態で発見される可能性が高くなると思ったんです。俺は確実に実行するために、小林に近づきました。友達もロクにいない小林を騙すのは簡単だった。一か月も経たないうちに、自宅に招いてくれるようになりました。そこで俺は、日野に嫌疑がかからないようにアリバイをつくらせ、公開自殺を実行したんです」
 そして公開自殺の日。
 実行犯は谷分、協力者はもりりん。谷分は親友を連れてきたといって、もりりんと難なく小林沙耶の自室に入った。少女は殺されるなどとは想像もしていなかったはずだ。
 信頼していた相手に裏切られ、背後から縄を掛けられる。地蔵背負いという殺害方法で、小林沙耶は抵抗する暇もなく死に至ったのだ。
 犯行を終えた二人は他殺を自殺に見せかけるために、以前から用意していた遺書や写真などのデータと準備してきた固定カメラを使い、世間が震撼する公開自殺を企てた。
 そして第一の公開自殺は、他殺とは認識されないまま、自殺として処理された。
 しかし、ここでひとつの疑問が残る。何故、いじめを起こしていた相手を殺さず、仲間の小林沙耶のほうを殺したのか?
「何故、いじめの主犯格でなく、小林沙耶さんのほうを?」
 日野が立ちあがって、谷分を見た。
「私が頼んだんです。主犯格の子が苦しまずに死んでいくのは許せなかった。私と同じように、精神的に追いつめられて死んでいってほしいと思ったんです。学校も同じ――いじめの対応なんてしようとしなかった。だから学校名も公開してもらったんです」
 ホームページに公開された者たちの名前。遺書と公開自殺。それが合わさって日野の願いは見事果たされた。精神的に追いつめられて、いじめの主犯格は苦しんで自殺したのだ。
 学校も同じ処分を受けた。全て彼女の計画通りに進んだ。それは、臓器移植を目的とした日野の復讐でもあったのだ。
 しかし、小林沙耶の心臓は人のために使われることはなかった。脳死状態で発見されなかったのだ。
 谷分が息をついた。第二の事件。
「俺は次に親父を殺すことにしました。小林を殺す前から計画していたので、どちらに転んでもやめる気はなかった。パチンコから帰ってきた親父が、金を探している最中に背後から首を絞めました。そして公開自殺にした」
 谷分の母親は入院していたので、自宅にいたのは父と子二人だけ。実行はいつでも可能だったと考えられる。
 おそらく犯行前に、協力者であるもりりんが、証拠を落とさないよう完全に武装して部屋に潜んでいた。谷分の父が帰宅した瞬間に、二人で協力して殺害したのだ。
 第一の公開自殺と同様に、第二の公開自殺に見せかけた。谷分にとったら肉親の死だ。父は悩んでいた。きっと自殺すると心配していたと泣いて言えば、警察も信じてしまう。
 そうして第二の公開自殺も、他殺ではなく自殺として処理された。
「リストラされなければ、親父はああならなかった。会社側にも憤りを感じていました。それで会社名も公開したんです」
 これも谷分の望み通り、会社に絶大なダメージを与えることができた。
「けど、親父の臓器が提供されることはなかった。親父の親が反対したんだ。息子の体を切り刻むなんて酷すぎる。死んだ後くらい静かに寝かせてやってくれといって――」
 日芳登の臓器も、人のために使われることはなかった。これには谷分も日野も焦ったはずだ。このままでは遥に臓器が提供されることはない。時間だけが過ぎていく。
 そして、更に二人が行動を急がなければいけなくなる事態が起きた。それが、ネット内に自殺幇助をする『自殺屋』が潜んでいるという噂。
 公開自殺が他殺とわかってしまったら、一番に嫌疑がかかるのは第二の公開自殺事件の関係者である谷分だ。
 そして第一の公開自殺事件の関係者日野みどりと接点があると知られたら、もはや逃げ場はない。
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