イチゴパフェ
―――あの朝私は、各クラスに配布しなければならないプリントを配りにいっていた。
時間確か…7時頃。朝礼が始まるのが8時半なので、この時間に来ている生徒は滅多にいない―はずが。
「失礼します」
「……ひ、一条?」
「――秀。」
そこには、目を真っ赤にした秀がいた。
机にはたくさんの本や、プリントされた紙。
徹夜のしすぎかな、と思った。
「勉強…」
してたのね、と続けることはできなかった。
秀が私を抱きしめたから。
「秀……?」
「ごめん…ごめん…」
明るい教室、まだ薄暗い窓の外、真っ黒な黒板。
しんとした空気の中聞こえてくる、秀の低い声は、かすれてくぐもっていた。
私はこのときになってようやく、秀の目が赤かった理由に気づいた。
「なんで謝るのよ……秀は必要だと思ったから私を振ったんでしょ?」
私の後頭部に置かれた秀の手にそっと力が入り、私の顔は秀の胸の少し上に当てられる。
とくん、とくんと音がして。
目を閉じて、その音を聴いた。
「――秀。好きよ。」
そして、秀のお腹に手をついて間をあけた。
「今までありがとう。頑張って」
「日和」
目があったらきっと未練が出てしまう。
私はぱっと振り返って、それから走って教室を後にした。