初恋ナミダ。
悠馬お気に入りの自転車は漕ぎやすいらしく、それを表すかのようにすいすいと住宅街を走り抜けていく。
4月の穏やかな気候の中、感じる風はとても心地がいい。
「そーだ、遥」
「んー?」
「明日は俺、バイトあるから送ってやれねーぞ?」
「うん。私も明日は妹のとこ行ってくるし」
前を向いたまま話しかけてくる悠馬に明日の予定を声にすれば、彼は「そっか」と呟くように言って。
「そろそろ退院できそーなの?」
妹の経過を聞いてきた。
「んー…暫くは無理みたいな話だったよ」
先日、親から聞いたお医者さんの言葉を思い出しながら話すと、悠馬は少し優しい口調で「卒業式には間に合うといいな」と言ってくれた。
間に合って欲しい。
死に至る病じゃないけど、卒業式くらいはちゃんと出席させてあげたい。
そして、できることなら早く普通の生活を。
私はそう願いながら、ゆっくりと暮れ行く空を見上げた。