初恋ナミダ。
*彼女
自分には無理だと思ってた。
数学は大の苦手で、この先もずっと苦手な科目なんだろうって。
だけど、人はやる気を出せば変われるらしい。
青々しい葉が夏風に揺れる7月初旬。
1学期期末テストの結果が返却され、答案用紙を椎名先生から受け取った私は、赤文字で書かれた点数に目を見張った。
「は、はち、82!」
こんな点数、数学で……ううん、どの科目でもなかなかお目にかかれない点数だ。
思わず椎名先生を見ると、彼は僅かに瞳を和らげて「よく頑張ったな」と労いの言葉をくれる。
点数ももちろんだけど、椎名先生に褒められたことが嬉しくて。
私は小さく首を縦に振ると、にやけてしまう口元を答案用紙で隠しながら自分の席に戻った。
……私、椎名先生を好きだと自覚してから、こうして表情を緩ませることが増えたと思う。
先生の授業がある日は前日から楽しみで仕方ないし、そうじゃない日は、廊下とかでバッタリ会えただけで、その日のテンションはうなぎのぼりだ。
会えない日はその逆で、ちょっとつまらない日になっちゃう。
私の1日の良し悪しは、椎名先生で決まると言っても過言じゃない。