初恋ナミダ。


「大丈夫か!? 水を飲んだりは!?」

「だ、大丈夫……」


酸素を求め呼吸しながら頷いてみせる。

体に変わったところはない。

むしろ、心配になるのは……


「先生? どうしたの? 何だか変だよ」


膝をつき、私の顔を覗き込む椎名先生の様子だ。

私の肩に添えられた手が震えていて。

心配し焦るというよりも、何かに怯えているような不安そうな先生の表情に、私の方が心配になってしまう。

必死ともとれる様子に、どうしたのかと首を捻った直後、もしかしたら……と、思い当たる事がひとつ。


「先生……私は、死なないよ?」


声にすると、先生は僅かにハッとした表情を見せ、私の肩に触れていた手を離す。

そして「ああ……」と小さく頷くと、気が抜けたようにプールサイドに腰を下ろした。

立てた膝に肘をつき、両手で自分の顔を覆う椎名先生。


多分、先生の心には今


ななせさんがいる。



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