初恋ナミダ。


「つまり、この式を展開する場合は──」


閉め切った窓の外から聞こえてくるけたたましい蝉の合唱に、淡々と説明する声をかぶせる椎名先生。

夏らしい麻素材のシャツを着た先生は、右手に持ったチョークで黒板に数式を並べていく。


先生はいつもと変わらない。

まるで、七瀬さんのことを語った時の悲し気な姿は夢だったのではないかと思えるくらい普段通りだ。

毎日、そうなのかな。

抱えた痛みを隠しながら、教師として私達の前に立ってたのかな。

それとも教師として学校にいると忘れてられる……わけじゃないか。

何せ、ここは先生の母校だ。

つまり、ここには七瀬さんも通っていた。

きっと何をしていてもふとした拍子に思い出して辛くなってるんだろう。

だから、時々悲しそうな顔で中庭を眺めてるんだ。

中庭……七瀬さんとの思い出が強く残ってる場所なのかな……


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