初恋ナミダ。
*ドライブ
9月も半ばを過ぎた図書室のお気に入りの席は、まだ夏を惜しむように陽が強く射し込んでいる。
冷房が効いているといえども、降りかかる暑さには耐えられず、私は、日陰になっているいつもと違う席に座った。
けれど、いつもと違えばやはり落ち着かないもので。
ブー、ブー、と鞄の中で震えたスマホのバイブレーションをきっかけに、私は鞄を手にして席を立ち、放課後の図書室をあとにした。
廊下を歩きながらスマホをチェックすれば、震わせた相手は母。
「……だと思いましたよー」
今日も遅くなるというメールに、私は小さく声を漏らした。
平日に母から連絡がくるのは、大抵が帰宅が予定より遅くなるから夕食はチンして、とか、適当に食べてという内容のものばかり。
父も似たようなもので、たまにしかこないメールには、家族で過ごす予定のキャンセルや変更に関することが多い。
仕方ないのはわかってる。
でも、お盆休みもほとんど家で仕事をしていた父と母の姿を思い出し、私は小さなため息をひとつ吐いた。
そして、気持ちを切り替えるように息を吸い込んでからスマホを鞄に戻すと、人気のない静かな生徒玄関で黒いローファーに履き替え校舎を出た。