初恋ナミダ。
そろそろ夕方という時刻だけどまだ夏の気配を残した空は少し明るい。
風がゆったりと緑の葉を揺らし通り抜けていく。
耳に優しいその音を聞きながら校門をくぐった時だった。
ファン! という切れのいい車のクラクションが鳴り、音がした方へ視線を向ければ。
「やあやあ、遥ちゃん久しぶり!」
運転席から顔を出し、人懐こい笑みを浮かべてこちらに手を振る、椎名先生の友人、葛城さんがいた。
「こんにちは」
私は挨拶をしながら、艶のある深い赤色の車に近づく。
そんな私を見ながら、葛城さんはニコニコと「今日は要を誘いに押しかけてみたんだよ」と話した。
そうなんだ、と思った直後、こんな早い時間に誘いにくるなんて、葛城さんは何の仕事をしてるんだろうという疑問が浮かぶ。
でも、あれこれ詮索するのもよくない気がしていたら、不思議に思う気持ちが態度に出ていたのか、葛城さんがクスリと笑って。
「仕事はね、今日はオフだから」
そう言った。