初恋ナミダ。


「目的地を設定しました」


カーナビから女性の声がそう告げて、葛城さんはゆっくりとアクセルを踏み込む。

葛城さんが入力した住所は、私の家のものだ。

私が帰るタイミングだったので、ドライブは少し遠回りしながらの帰宅コースになった。

葛城さんは慣れた手つきでハンドルをきり、車を走らせる。

車内に流れる曲は海外アーティストのジャズロックで、普段Jポップばかり効いているせいか、こういうのを普通に聴いてる葛城さんがすごく大人に感じた。


「こういう曲、好きなんですか?」

「うん、そうだね。でも夏はレゲエもガンガンかけてたよ」


海に行くならレゲエだよねと笑みを浮かべる葛城さん。


「しっかし、今年も要は付き合ってくれなかったなー」

「何にですか?」

「海だよ。海。ほんと、そろそろいいと思うんだけどさ」


きっと、葛城さんは七瀬さんの事を話してるんだろう。

だけど、私からその話しに触れるのは椎名先生に悪い気がして、フロントガラスの向こうに流れる景色を黙って見ていたら。


「……もしかして、要から聞いた? 苦手な理由」


優しく尋ねられ、私は少し躊躇った後、コクリと遠慮がちに頷いた。


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