初恋ナミダ。
「夕飯……適当でいいかな……」
コンビニで何か買って済ませればいいかと考えたその時、リビングのテーブルに置いてあったスマホが着信を告げた。
悠馬からだ。
私はディスプレイに指をスライドさせると、スマホを耳に当てた。
「もしもし?」
『よっす! 遥、今暇か?』
鬱々としかけた雰囲気が一気に晴れるような能天気な悠馬の声。
「うん、マフィン焼いてるだけ」
『おっ、それ俺の分もある? むしろ俺の為?』
「そんなわけ──」
『オッケー、今から邪魔しに行くわ』
「え、ちょ」
誰も良いとは言っていない。
その言葉は口にされることなく、すでに通話は終了されてしまった。
仕方なく、私は簡単に家の中を片付け始める。
マフィンの焼ける匂いに包まれながら待つこと10分。
ドアチャイムが鳴って、Tシャツに七分袖丈のパーカーを羽織った悠馬がやってきた。
静かだった家の中が、急に明るい雰囲気に変わる。
「マフィンできた?」
「まだ。ていうか、私の返事なしで来るのやめてよ」
「でも暇だったろ?」
「たまたまね!」
たまたまの部分を強調して言うも、悠馬は軽くあしらうようにハイハイと声にしてリビングのソファーに座った。