初恋ナミダ。


それが単純に変な声に対してのものなのか、それともさっきのはやっぱり気のせいなんかじゃなくて、それに対するものなのか。

だけど、さっき抱き締めましたかなんて聞けるわけもなく。


「い、いえ……ところで、何ですか?」


とりあえず先生の用件を促した。


「ああ。ご褒美は決まったのかと、聞こうと思ったんだ」


あ、覚えててくれてたんだ。

期末の点数が良かったらとねだったご褒美。

結局、何にしようか決まらないまま今日まで過ごしてしまってたけど……


「色々とお世話になったのでもういいです」


むしろ泊めてもらって、手を握り返してもらって。

これ以上望むのは欲張りだ。

だけど、先生は「いいから、貰えるものは貰っておけ」と微笑んだ。

ご褒美、か……

欲しいものなんて──


あ、ひとつ、あるかも。

欲しいというよりも願望だけど。

むしろ、それが叶う気はしないけど。

言うのはタダだ。

何より、さっき動揺させてくれた仕返しもちょっとしたいから。


「じゃあ、これからは名前で呼んでください。遥って」


意地悪で贅沢なご褒美をお願いした。


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